映画

新しい朝の迎え方 『トウキョウソナタ』

佐々木家の主・竜平(香川照之)は大企業の総務課長をしていたが、仕事の外部委託が決まった途端、会社で用無しになってしまった。しかし家族にはそれを必死で隠そうとする。妻・恵(小泉今日子)はなんとなしに夫の異変に気付きながらも、「お母さん役」で…

渇きとそれを包み込む音楽 『幸福 Shiawase』

北海道、勇払。疲れ果てた男(石橋凌)は駅に降り立ち、やがて公園で倒れた。女(桜井明美)はそれを見つけ、勤めている場末のスナックに連れて行く。勤めが終わると女は男を部屋へ連れて行き、泊める。行きずりのふたりは、そのまま共同生活をはじめる。お…

『僕の彼女はサイボーグ』のこと、『山桜』のこと

相変わらずスランプ状態なので、気楽に書かせていただきたい。もとよりまじめに書くことを期待されていない、というのは言わないことにして。 どういうわけかクァク・ジェヨン監督が日本映画を作ってしまった『僕の彼女はサイボーグ』。綾瀬はるかのプロモー…

今回もやられた 『アフタースクール』

ここのところ心身ともに調子がよくない。厳密に言うと、体調がおかしいときと精神面の不調が交互に訪れて、なかなかバランスをとりにくい状態が続いている。しかし月末に控える会社の健康診断のことを思えば、体重も減ってきているし、悪い話じゃない。ただ…

映像美を楽しむには恰好の出来映え 『山のあなた 徳市の恋』

新緑の季節になり、目の見えない按摩の徳市(草なぎ剛)は連れの福市(加瀬亮)と山間の温泉場にやってきた。しばらくはここが仕事場となる。道中、ずいぶんたくさんの目明きを追い越して歩いてきたが、馬車には追い抜かれてしまった。なかには東京の女がい…

いまモダンの時代へ 『丘を越えて』

昭和初期の東京下町には、まだ江戸の生活そのものを送る人びとがあった。そのひとり、葉子(池脇千鶴)は女学校を出て、就職活動中。友人の紹介で文藝春秋社の面接に漕ぎ着けた。あいにくの不景気で社員の募集はなかったが、社長の菊池寛(西田敏行)は私設…

監督の手のひらで回る日常世界 『パークアンドラブホテル』

新宿百人町、ホテル流水。艶子(りりィ)はこのラブホテルをひとりで切り盛りしている。客は少ない。しかし、老若男女、とにかく大勢の人が建物に入っていく。家出してこの街に迷い込んだ少女の美香(梶原ひかり)はこの光景に驚き、彼らについてホテルの屋…

映画でこそ描きたいことがある 『相棒―劇場版―』

杉下右京(水谷豊)と亀山薫(寺脇康文)、ふたりだけの特命係は、かつてかかわった代議士・片山雛子(木村佳乃)の身辺警護を命じられる。羽田空港までの僅かな道程にもかかわらず、一団はいたずらじみた爆弾の攻撃に見舞われる。やがてそれが、SNSで公表さ…

絵画のような映像と行き届いた演出に感服 『あの空をおぼえてる』

田園風景の広がる街で、交通事故が起きた。写真館を営む深沢(竹野内豊)の2人の子が走って買い物に出かける途中だった。長男の英治(広田亮平)は一命を取り留めたが、妹の絵里奈(吉田里琴)はその短い一生を終えた。それ以来、にぎやかだった家族が一変し…

なにかがどこかで絶えずずれつづけ 『砂時計』

両親の離婚で、東京から母親の故郷の島根にやってきた杏(夏帆、松下奈緒)。しかし母親は故郷ですでに居場所はなく、心神を患った挙句、自死してしまう。どん底に落ちた杏を支えたのは、引っ越して早々からなにかと気を使ってくれた大悟(池松壮亮、井坂俊…

子供が大人になるそのとき 『チェスト!』

錦江湾を望む鹿児島の漁港。小学6年の吉川隼人(高橋賢人)は、剣術で精神を鍛錬する一方で、大きな弱点があった。カナヅチなのだ。なのに小学校には、桜島を往復する遠泳大会がある。2年連続で仮病を使った隼人だが、いよいよ逃げられなくなった。そんなと…

開き直ったテレビ的作品の清々しさ 『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』

栃木県のとある田園都市。不良と呼ぶにはあどけない、いたずら好きの高校生たちがいた。ある日、そんな彼らに完全と立ちはだかる壁が現れた。駐在さん(佐々木蔵之介)は西条(石田卓也)のスピード違反を取り締まったことをきっかけに、彼らは駐在さん相手…

表現することの楽しさを表現する 『うた魂♪』

七浜高校2年の荻野かすみ(夏帆)は合唱部のソプラノパートリーダー。歌が上手くて美人なのは他人も認めるが、本人の自惚れ方は尋常でない。ある日、片思いの生徒会長・牧村(石黒英雄)に写真のモデルになって欲しいと言われ、それが告白のようなものだと妄…

信じられないけれど頷けるなにか 『受験のシンデレラ』

真紀(寺島咲)は高校を中退して運送会社に勤める毎日。母親(浅田美代子)は働かず真紀の給料で遊んで暮らす。父親は家を出て行った。真紀は日給で貧しい家計を支えていた。ある日、スーパーで裕福さを持て余したようないらだった男に遭遇する。その男、五…

それは再生の物語 『船、山にのぼる』

広島県、灰塚。3町にまたがるこの谷にダム建設の計画が持ち上がったのは40年以上も前のこと。反対運動は洪水被害を目の当たりにして揺れ続け、ついに受け入れを決めた。それから運動は、いかに集落を再建していくかにテーマをシフトさせた。移住と同時に進め…

きれいごとではない、生きていくということ 『memo』

学校で、とても簡単な小テストが満足に解けない。解いているうちにペンを持つ手が震える。頭に描かれた言葉を書き留めずに入られない。テスト用紙を裏にして、つながりのない言葉を書きなぐる繭子(韓英恵)は、強迫性障害を抱え、カウンセリングを受けてい…

人に憑かれる死神の話 『Sweet Rain 死神の精度』

死神は不慮の死を遂げようとする者に寄り添い、人生の目的を果たしたかどうかを判定する。多くの場合はそのまま「実行」、すなわち死に至るが、時には目的に果たしていないとして「見送り」になる者もいる。死神の千葉(金城武)の次の対象者は、バブル期の…

ザ・カズシゲ 『ポストマン』

千葉県の漁師町の郵便局で配達員をしている海江田龍兵(長嶋一茂)は、昔ながらの自転車"バタンコ"で町を回る毎日。同僚からは古臭いと言われながらも、手紙を届けながら町中の人に挨拶をするのが楽しみであり、使命感もある。彼は2年前に妻・泉(大塚寧々)…

わざわざスクリーンで観るものでもなし 『ブラブラバンバン』

中学を卒業したら吹奏楽は辞めるつもりだった。入学した高校の吹奏楽部も廃部していた。しかし白波瀬(福本有希)は、音楽室でホルンを吹く2年生の芹生(安良城紅)を目撃してしまう。彼女のボレロに合わせて白波瀬がトランペットを吹くと、突然彼女は発情し…

組織が朽ちていくことの克明な記録 『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』

(長い作品で、感想もつい長くなってしまった) 60年安保闘争の敗北で諸派に分裂していた共産主義者同盟(ブント)は、数年後に再統合されていた。明治大学の学費値上げに反対する集会に参加していた遠山美枝子(坂井真紀)は、重信房子(伴杏里)と知り合い…

無自覚なご都合主義 『犬と私の10の約束』

函館で暮らすあかり(福田麻由子、田中麗奈)は14歳。大学病院に勤める父親(豊川悦司)は帰りが遅く、母親(高島礼子)とふたりで暮らす毎日だったが、その母親が突然入院してしまう。父親と朝食をとるある日、庭から子犬がやってきて、家に入ってしまう。…

狂気の沙汰はどっちだ 『接吻』

閑静な住宅街で、幼い子供を含む一家3人が鈍器で殴られて殺害される事件が起こった。やがて捜査線上に浮かんだ坂口(豊川悦司)という男は、マスコミに犯行声明を送りつけ、あえてマスコミのカメラに囲まれて逮捕された。OLの遠藤(小池栄子)は、坂口のカメ…

ステレオタイプが物語をどうさせたか 『ガチ☆ボーイ』

4月。大学のキャンパスではサークルの呼び込みが絶え間ない。彼らをすり抜け、五十嵐良一(佐藤隆太)がたどり着いたのは、憧れのプロレス研究会だった。とはいえ良一はすでに3年。司法試験の一次試験に合格したこともある秀才がなぜプロレスに。ともかく練…

理解しようとして失敗 『ライラの冒険 黄金の羅針盤』

この世の中とはすこし違う世界で、世界は"教権"の支配下にあった。そのなかで長い間ひた隠しにされたこと、それは、世界は無限に存在し、それらがダストという物質でつながっているということだった。学者のアスリエル卿は北極にダストの存在を明らかにする…

ストイックであるが故の豊かな表現 『明日への遺言』

昭和20年5月、名古屋は米軍機による無差別爆撃により、多くの死傷者を出した。その際銃撃を受けた米軍機からは、幾人かのパイロットがパラシュートで降下し、日本軍に逮捕され、処刑された。それを指揮した岡田資(藤田まこと)をはじめとする東海軍の元軍人…

スクリーンに抜けるような青空を見た 『奈緒子』

喘息の治療のために家族でやってきた長崎県の波切島。小学生の奈緒子(藤本七海、上野樹里)は漁船に乗せてもらうが、海に転落し、助けられたが、代わりに船長が水死してしまう。あれから数年、高校生になった奈緒子は、船長の息子・雄介(三浦春馬)に再会…

丁寧な作品、だけどちょっと惜しい 『凍える鏡』

東京の公園で開かれるフリーマーケットで、青年(田中圭)は絵を描き、売っていた。彼の目は鋭く凶暴で、暴力的な態度に出ることもしばしばだった。ある日、通りかかった絵本作家の矢崎(渡辺美佐子)が彼の絵を認め、交流がはじまる。絵と彼の性格に心の闇…

そんなに僕を泣かせないでよ 『歓喜の歌』

田舎町にあるみたま文化会館で主任を務めるは飯塚正(小林薫)。春に異動で赴任して以来、適当でいい加減な毎日を過ごしている。口先だけは達者。それが災いして、あろうことか大晦日のママさんコーラスのコンサートをダブルブッキングしてしまう。部下にそ…

痛快なキャラクター勝負 『チーム・バチスタの栄光』

城東大学が誇る通称チーム・バチスタは、拡張性心筋症の手術で無敵の連戦連勝を重ねてきた。しかしある日を境に状況は一変。3連続の術死が発生する。執刀医の桐生(吉川晃司)は自ら原因調査を院長に依頼、その担当に、どういうわけか患者の愚痴聞きと名高い…

吉田拓郎で松竹のど真ん中を 『結婚しようよ』

「わたしは今日まで生きてみました/時にはだれかの力をかりて/時にはだれかにしがみついて/わたしは今日まで生きてみました/そして今 わたしは思っています/明日からも こうして生きて行くだろうと」*1 不動産屋の平凡なサラリーマン・卓(三宅裕司)は…