映像美を楽しむには恰好の出来映え 『山のあなた 徳市の恋』

新緑の季節になり、目の見えない按摩の徳市(草なぎ剛)は連れの福市(加瀬亮)と山間の温泉場にやってきた。しばらくはここが仕事場となる。道中、ずいぶんたくさんの目明きを追い越して歩いてきたが、馬車には追い抜かれてしまった。なかには東京の女がいる、と徳市は思った。徳市は勘が鋭い。その夜、徳市は鯨屋に泊まっているその女(マイコ)を按摩することになった。
清水宏の『按摩と女』を"カバー"した作品なのだという。恥ずかしながらオリジナルは未見である。
まず、作品の映像美に感激する。カバーというぐらいだから、絵画でいう模写のようなものだろうが、古い白黒フィルムを鮮やかなカラー映像で模写するには、それなりの作家性が出てくる。新緑の山の緑、あるいはあじさいのころの雨に濡れた緑。あるいは温泉場の風景、襖や柱を使った構図のよさなど、意味的な映画というよりも、感性に働きかける映像作品というほうが、なんとなくしっくりくるような気がする。美術は都築雄二だが、静かな宿場のやわらかい情緒を見事に表している。映像だけをとれば、ことし一番の出来である。暗転がやけに多いのはちょっと気になるけれど。
さて、按摩の世界は今も昔も盲人の世界である。盲人を演じるのはさぞ難しいことと思う。どの演技にもリアルよりもリアルらしさが求められるが、過去にそれらしい盲人の演技をさほど見たことがない。まして昭和初期の脚本をほぼまま使用している。慣れない言い回しをも求められてしまう。
そんななか各人とも健闘している。とくに田中要次の演技は見事だった。加瀬亮も細やかな仕草の研究の成果がよく出ている。草なぎ剛も後半とくによくなっている。少年とやりあうシーンで見せる穏やかな佇まいは本当にすばらしい。だからこそ、ときどき怪しくなる日本語のアクセントが気になって仕方がない。「ハイキング」は1拍目の音が高くなるが、彼は平坦に読んでしまう。「青葉」「(2人称の)あなた」も同様に。
これは彼だけの問題とも言えまい。アクセントのことだけを言いたいのではない。それをはじめとして、すでに存在する脚本をそのまま読むだけの芝居になってはいけない。カバーしなければならない。全体として、なんとなく線をなぞるような部分が散見されたことが残念。その点をいくと、マイコや津田寛治黒川芽以はカバーされた世界で生き生きとしていた。
ところで、福市がはじめて出向いた客のシーンがすばらしすぎる。早足の按摩に追われているようで、つい道中無理をしてしまったと文句を言う女学生が、布団に寝っ転がって按摩をからかう。そのメンバーは、野村佑香伴杏里尾野真千子金田美香末永遥。ああこの人たちに一晩からかわれつづけたい。そして按摩代を負けろというなら喜んで負けて、丁寧に丁寧に按摩したい。翌朝の山道、彼女たちの爽やかさときたらない。それと対照的な男子学生の中心に轟木一騎がいるというのもすごい。このあたりのキャスティングのよさは石井克人である。