しらけどり映画大賞2010

なんだかんだでいままでにない勢いで映画を観てしまった。劇場で観た作品107本。そこから旧作と洋画を除くと99本。学生の頃でもここまで多くなかった。暇だったと言えばそれまでだが、それはいまになって始まったことでもないので、やはり公開された本数が多かったのだろう。何年振りかで1日に3本も映画館で観てしまったことも。
99本もあれば、作品の質はまさにピンからキリまである。しかし、レベルは高かった。何年もコツコツと書き溜めた採点表によると、今年は5作が過去最高点を更新している。それゆえにベストテン選びも苦労した。自分で勝手にやっていて苦労も何もないのだが。とにかく、ベストテンに入るレベルの作品が、入らない。
そんなわけで、作品はベスト20まで作ってしまった。
対象作品はこちらをご参照を。今年観た新作の日本映画すべてです。

2010年作品十選(数字は順位)

  1. 告白
  2. 十三人の刺客
  3. 川の底からこんにちは
  4. パーマネント野ばら
  5. 書道ガールズ!!−わたしたちの甲子園−
  6. 半分の月がのぼる空
  7. カラフル
  8. 海炭市叙景
  9. 悪人
  10. 孤高のメス

ずば抜けていた作品がふたつあった。圧倒的に引き込まれた。ある作品は、世の中に完全に飼育されてしまった若者の悲劇と、そこから自分の力で抜け出すための前提を示した。他方、悪を征伐する正義の、実に痛快な時代劇だった。笑っちゃうぐらい徹底した殺戮であった。甲乙つけがたいレベルの高さながら、バッドエンドを志向した前者を1にした。
リアルがリアルになりきれない。結局のところ、自分の体験をもってしか他者を理解することはできない。だけど、世の中に飼いならされてしまったわたしたちは、リアルを別のもので代用することを、貨幣によって実現する。だから、リアルがリアルとして機能しなくなっていく。不可思議な行動の不可思議さを理解しきることは困難だろう。他者のいる社会の一員になることができるのは、自らの意識でしかない。重みのある作品だった。時代がバッドエンドを求めているのなら、なおさらよい。
2は、三池崇史のえげつなさが不可解を通り越して快感に変わった。悪役が素晴らしいと、成敗が気持ちいい。一瞬、悪の殿様が同情を誘うようなセリフを述べる。しかし同情に至らないのがいい。そしてその心情が、1に登場する若者たちとどこか重なって見えてくるあたりに、時代性を感じる。
3は、途中まで1位の有力候補だった。石井監督の作品は初めてだったが、今年一番笑った映画だった。それにしても結婚しちゃうんだもんな。才能は恐ろしい。4は脚本のすばらしさと、客を騙し切る菅野美穂の名演技。5は安易なガールズムービーだと油断したら、青春群像に目頭を熱くしてしまった。6も脚本。全貌がばれる瞬間、あっと声を出しそうになった。7もまた時代性を持ちながら、しっかりと大人のアニメ。宮崎あおい南明奈が圧巻。8は静かに北海道の暗部を見せていく。北海道には鈍い空がある。9は李監督らしい丁寧な作りに、いたたまれない人間模様が加わって、深みが増した。10も丁寧。地に足がついた重厚な作品。
さて、これだけでどうしても終われないのが2010年。どういうわけかベストテンに入れたくても入れられなかった作品が大量に残っている。2009年に公開していればいくらでも上位を狙えたであろう作品の数々を、ぜひ紹介したい。

2010年作品落選集(数字は順位)

11.春との旅
12.必死剣 鳥刺し
13.アブラクサスの祭
14.スープ・オペラ
15.パレード
16.ケンタとジュンとカヨちゃんの国
17.信さん・炭坑町のセレナーデ
18.ゴールデンスランバー
19.スイートリトルライズ
20.キャタピラー
11は予告編を見たときからベストテン確実と思っていたのだが。やや旅路の過程に見えにくさがあって、余計な頭を使ってしまう部分があった。しかしテーマ曲はいまでも鮮烈に思い出せる。12、17と平山秀幸監督の作品がある。この人は確実に面白いものを作ってくる。安定感は群を抜いている。16は時代性の強さがとても好印象だった。その観点を強調すれば確実に上位だったが、評価基準とは難しいものである。
12、19と池脇千鶴出演作が並んだのは嬉しいところ。『パーマネント野ばら』も入れれば3作。いい作品にはい演者がいるのだ。などと言ったところで矛盾するようだが、以下の出演者の選からは漏れてしまった。敢えて言えば、新しい発見が待たれる。14に瀧本監督、18に中村監督など実力者も。いつか行定映画を再びベストテンに入れたいと思っているのだが。

2010年主演十選(五十音順)

数えると11名いる。どうしてもこれ以上絞れなかった。99本も見ると、こんなこともあるのだろう。逆に、10人に満たない年だって、いつか訪れるだろう。男女半分ずつ選ぶことができた。太字は男女それぞれとくに優れた人物をさすが、役所広司がどちらも時代劇だ。『最後の忠臣蔵』は作品としては評価していないが、彼ひとりが気を吐いていた。
女性は満島ひかり。去年はキネ旬助演女優賞を受賞した彼女だが、実は僕は、悩んだ挙句『ディアドクター』の八千草薫にしてしまい、なんとなく悔やんでしまった。だってキネ旬があんな選び方をするとは思わなかったんだもの。今年は『川の底からこんにちは』があってくれてよかった。スカッとする怪演だった。ちなみに主演作だけで選んだが、『悪人』もよかった。
今年はちなみに海外で高く評価された演者がいる。素晴らしい出来事だと思うし、実際、素晴らしい演技だと思う。ただ、これも発見なのであって、海外での発見と、日本での発見は、視点が異なる。海外で評価されると無条件で日本でも評価が吊り上ることがあるが、評価される演者がいる地力の良さをこそ評価されるものではないか。それから、濡れ場があると評価されやすいのはどうしたものか。

2010年助演十五選(五十音順)

これはたいへんだ。ひとりでこんなにたくさんの作品に出るというのは、このクラスの役者ではちょっと多すぎではないか。しかし多くの作品に出ている演者にこそいい演技があったのも今年の特徴である。とはいえ寡占状態というか、キャスティングが安易になっているのではないかという印象はぬぐえない。
そんなご一行のなかでも、演技の幅広さで言えば岸部一徳ではないか。悪役が本当によく似合うし、怖い。善人と悪人を行ったり来たりする不気味さはピカイチだ。
ところで女性が少ない。やたらとおじさん寄りになっているのは時代の要請なのか。惜しむらくは谷村美月を選から漏らしたことだろう。無論、入れたければ入れればいいだけのことだが。平均点はものすごく高いのに、ずば抜けていて、新しい発見を得るには至らなかったと判断してしまった。なぜ勝手な判断に言い訳しているのか、自分でもわからない。
女性のベストは徳永えり。いま、あの役柄を演じられるのは彼女をおいていないかもしれない。変な言い方かもしれないが、どこもかしこもモデルみたいな人ばかりで、つまらない。きれいな人だけで成り立つ世の中はない。美しさが、必ずしもそこに存在するとは限らない。貴重な演者である。

2010年新人十選(五十音順)

新人の定義をキネ旬と同じにしてあるので、若い人ばかりではない。川島海荷がちょっと残念。こうしてみると、役者として、歌手として、モデルとしてキャリアのある人ばかりだ。基準を満たした新人は量産できるけれど、新人として評価できる人は、そんなにたくさんは現れない。あるいは子役だらけになるときもある。そんななかで女性は忽那汐里。気の強さと可憐さのバランスがいい。スクリーンでぐっと映える。
男性はちょっとさびしい。いつもそうなりがちなので仕方ないのだが。どうしても新星の輝きは女性にかなわない。男性はどうしてもぼやーんとしてしまう。強いて言えば今年は近藤洋一か。ミュージシャンとしてのキャリアはあるが、小細工しない縁起の不器用さが、作品とマッチしていた。
さて、さすがに今年は本数も減るだろう。そうでないと、休みの日が休みの日でなくなってしまう。ひとまず、新年はまだ何も観ていない。まあぼちぼちで。できるだけここも更新するようにします。