2008-01-01から1年間の記事一覧

新しい朝の迎え方 『トウキョウソナタ』

佐々木家の主・竜平(香川照之)は大企業の総務課長をしていたが、仕事の外部委託が決まった途端、会社で用無しになってしまった。しかし家族にはそれを必死で隠そうとする。妻・恵(小泉今日子)はなんとなしに夫の異変に気付きながらも、「お母さん役」で…

市川準監督 追悼上映

http://www.tiff-jp.net/report/daily.php?itemid=613 東京国際映画祭のなかで、市川監督の追悼企画をしてくれるんだそうです。なんと初監督作『BU・SU』です。僕はたったいちどレンタルショップで発見して以来観ていないのですが、なんとかチケット争奪戦に…

渇きとそれを包み込む音楽 『幸福 Shiawase』

北海道、勇払。疲れ果てた男(石橋凌)は駅に降り立ち、やがて公園で倒れた。女(桜井明美)はそれを見つけ、勤めている場末のスナックに連れて行く。勤めが終わると女は男を部屋へ連れて行き、泊める。行きずりのふたりは、そのまま共同生活をはじめる。お…

眼差しのひと、市川準

復活して早々、こんなことを書く羽目になるとは思わなかった。呼び寄せた、なんてことは思わないけれど、あまりに偶然すぎて、なんと言ったらいいのか。会社で一報を見たとき、絶句してしまった。 市川準監督の訃報である。59歳は若すぎる。もっとたくさん、…

復活のお知らせ

あーふぁふぁふわあ、よく寝た。いま何時? は、9月? ぐらいの茶番劇をしたくなるぐらい、ご無沙汰しております。結局、死にませんでした。万事も一事も順調な毎日とはいきませんけど、だからこそ下手糞な文章を書くしかないんじゃないかと、およそ健全な人…

ちょっと休憩いただきます

ただでさえ週に1回ぐらいしか更新しないで、なにを休憩かと言われそうですが、少しのあいだここから離れたいと思います。 すっかり映画感想ブログになりました。いまでも週末のたびに映画館に通ってはいるのですが、感想を書くことが重くなりまして、いよい…

『僕の彼女はサイボーグ』のこと、『山桜』のこと

相変わらずスランプ状態なので、気楽に書かせていただきたい。もとよりまじめに書くことを期待されていない、というのは言わないことにして。 どういうわけかクァク・ジェヨン監督が日本映画を作ってしまった『僕の彼女はサイボーグ』。綾瀬はるかのプロモー…

今回もやられた 『アフタースクール』

ここのところ心身ともに調子がよくない。厳密に言うと、体調がおかしいときと精神面の不調が交互に訪れて、なかなかバランスをとりにくい状態が続いている。しかし月末に控える会社の健康診断のことを思えば、体重も減ってきているし、悪い話じゃない。ただ…

映像美を楽しむには恰好の出来映え 『山のあなた 徳市の恋』

新緑の季節になり、目の見えない按摩の徳市(草なぎ剛)は連れの福市(加瀬亮)と山間の温泉場にやってきた。しばらくはここが仕事場となる。道中、ずいぶんたくさんの目明きを追い越して歩いてきたが、馬車には追い抜かれてしまった。なかには東京の女がい…

いまモダンの時代へ 『丘を越えて』

昭和初期の東京下町には、まだ江戸の生活そのものを送る人びとがあった。そのひとり、葉子(池脇千鶴)は女学校を出て、就職活動中。友人の紹介で文藝春秋社の面接に漕ぎ着けた。あいにくの不景気で社員の募集はなかったが、社長の菊池寛(西田敏行)は私設…

監督の手のひらで回る日常世界 『パークアンドラブホテル』

新宿百人町、ホテル流水。艶子(りりィ)はこのラブホテルをひとりで切り盛りしている。客は少ない。しかし、老若男女、とにかく大勢の人が建物に入っていく。家出してこの街に迷い込んだ少女の美香(梶原ひかり)はこの光景に驚き、彼らについてホテルの屋…

映画でこそ描きたいことがある 『相棒―劇場版―』

杉下右京(水谷豊)と亀山薫(寺脇康文)、ふたりだけの特命係は、かつてかかわった代議士・片山雛子(木村佳乃)の身辺警護を命じられる。羽田空港までの僅かな道程にもかかわらず、一団はいたずらじみた爆弾の攻撃に見舞われる。やがてそれが、SNSで公表さ…

絵画のような映像と行き届いた演出に感服 『あの空をおぼえてる』

田園風景の広がる街で、交通事故が起きた。写真館を営む深沢(竹野内豊)の2人の子が走って買い物に出かける途中だった。長男の英治(広田亮平)は一命を取り留めたが、妹の絵里奈(吉田里琴)はその短い一生を終えた。それ以来、にぎやかだった家族が一変し…

なにかがどこかで絶えずずれつづけ 『砂時計』

両親の離婚で、東京から母親の故郷の島根にやってきた杏(夏帆、松下奈緒)。しかし母親は故郷ですでに居場所はなく、心神を患った挙句、自死してしまう。どん底に落ちた杏を支えたのは、引っ越して早々からなにかと気を使ってくれた大悟(池松壮亮、井坂俊…

子供が大人になるそのとき 『チェスト!』

錦江湾を望む鹿児島の漁港。小学6年の吉川隼人(高橋賢人)は、剣術で精神を鍛錬する一方で、大きな弱点があった。カナヅチなのだ。なのに小学校には、桜島を往復する遠泳大会がある。2年連続で仮病を使った隼人だが、いよいよ逃げられなくなった。そんなと…

開き直ったテレビ的作品の清々しさ 『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』

栃木県のとある田園都市。不良と呼ぶにはあどけない、いたずら好きの高校生たちがいた。ある日、そんな彼らに完全と立ちはだかる壁が現れた。駐在さん(佐々木蔵之介)は西条(石田卓也)のスピード違反を取り締まったことをきっかけに、彼らは駐在さん相手…

表現することの楽しさを表現する 『うた魂♪』

七浜高校2年の荻野かすみ(夏帆)は合唱部のソプラノパートリーダー。歌が上手くて美人なのは他人も認めるが、本人の自惚れ方は尋常でない。ある日、片思いの生徒会長・牧村(石黒英雄)に写真のモデルになって欲しいと言われ、それが告白のようなものだと妄…

信じられないけれど頷けるなにか 『受験のシンデレラ』

真紀(寺島咲)は高校を中退して運送会社に勤める毎日。母親(浅田美代子)は働かず真紀の給料で遊んで暮らす。父親は家を出て行った。真紀は日給で貧しい家計を支えていた。ある日、スーパーで裕福さを持て余したようないらだった男に遭遇する。その男、五…

それは再生の物語 『船、山にのぼる』

広島県、灰塚。3町にまたがるこの谷にダム建設の計画が持ち上がったのは40年以上も前のこと。反対運動は洪水被害を目の当たりにして揺れ続け、ついに受け入れを決めた。それから運動は、いかに集落を再建していくかにテーマをシフトさせた。移住と同時に進め…

マイルドな国、日本

これについては沈黙が金になり得ないと思うので、眠い目をこすりながらでも書かないといけないのだろう。なにも書かないで済む展開を期待していたのに。日本語が少々おかしくなるのは眠いせいということにしておいて欲しい。 「靖国」というドキュメンタリー…

きれいごとではない、生きていくということ 『memo』

学校で、とても簡単な小テストが満足に解けない。解いているうちにペンを持つ手が震える。頭に描かれた言葉を書き留めずに入られない。テスト用紙を裏にして、つながりのない言葉を書きなぐる繭子(韓英恵)は、強迫性障害を抱え、カウンセリングを受けてい…

人に憑かれる死神の話 『Sweet Rain 死神の精度』

死神は不慮の死を遂げようとする者に寄り添い、人生の目的を果たしたかどうかを判定する。多くの場合はそのまま「実行」、すなわち死に至るが、時には目的に果たしていないとして「見送り」になる者もいる。死神の千葉(金城武)の次の対象者は、バブル期の…

山岳ベース・考 (実録・連合赤軍おかわり)

あの作品から3日4日と経過したが、いまなお熱情に引きずられている。その感覚が『紀子の食卓』のときに似ているので、なんとなしに比較しそうになる。以下、乱暴な文章になるだろうが、熱を引くためのおかわりを書く。気が向いたらどうぞ。 いわゆる山岳ベー…

ザ・カズシゲ 『ポストマン』

千葉県の漁師町の郵便局で配達員をしている海江田龍兵(長嶋一茂)は、昔ながらの自転車"バタンコ"で町を回る毎日。同僚からは古臭いと言われながらも、手紙を届けながら町中の人に挨拶をするのが楽しみであり、使命感もある。彼は2年前に妻・泉(大塚寧々)…

わざわざスクリーンで観るものでもなし 『ブラブラバンバン』

中学を卒業したら吹奏楽は辞めるつもりだった。入学した高校の吹奏楽部も廃部していた。しかし白波瀬(福本有希)は、音楽室でホルンを吹く2年生の芹生(安良城紅)を目撃してしまう。彼女のボレロに合わせて白波瀬がトランペットを吹くと、突然彼女は発情し…

組織が朽ちていくことの克明な記録 『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』

(長い作品で、感想もつい長くなってしまった) 60年安保闘争の敗北で諸派に分裂していた共産主義者同盟(ブント)は、数年後に再統合されていた。明治大学の学費値上げに反対する集会に参加していた遠山美枝子(坂井真紀)は、重信房子(伴杏里)と知り合い…

無自覚なご都合主義 『犬と私の10の約束』

函館で暮らすあかり(福田麻由子、田中麗奈)は14歳。大学病院に勤める父親(豊川悦司)は帰りが遅く、母親(高島礼子)とふたりで暮らす毎日だったが、その母親が突然入院してしまう。父親と朝食をとるある日、庭から子犬がやってきて、家に入ってしまう。…

狂気の沙汰はどっちだ 『接吻』

閑静な住宅街で、幼い子供を含む一家3人が鈍器で殴られて殺害される事件が起こった。やがて捜査線上に浮かんだ坂口(豊川悦司)という男は、マスコミに犯行声明を送りつけ、あえてマスコミのカメラに囲まれて逮捕された。OLの遠藤(小池栄子)は、坂口のカメ…

ステレオタイプが物語をどうさせたか 『ガチ☆ボーイ』

4月。大学のキャンパスではサークルの呼び込みが絶え間ない。彼らをすり抜け、五十嵐良一(佐藤隆太)がたどり着いたのは、憧れのプロレス研究会だった。とはいえ良一はすでに3年。司法試験の一次試験に合格したこともある秀才がなぜプロレスに。ともかく練…

理解しようとして失敗 『ライラの冒険 黄金の羅針盤』

この世の中とはすこし違う世界で、世界は"教権"の支配下にあった。そのなかで長い間ひた隠しにされたこと、それは、世界は無限に存在し、それらがダストという物質でつながっているということだった。学者のアスリエル卿は北極にダストの存在を明らかにする…