丁寧な作品、だけどちょっと惜しい 『凍える鏡』

東京の公園で開かれるフリーマーケットで、青年(田中圭)は絵を描き、売っていた。彼の目は鋭く凶暴で、暴力的な態度に出ることもしばしばだった。ある日、通りかかった絵本作家の矢崎(渡辺美佐子)が彼の絵を認め、交流がはじまる。絵と彼の性格に心の闇を感じた矢崎は、診療心理士の娘(冨樫真)にカウンセリングを依頼する。
全体的に、すごく惜しい。あとちょっとでものすごく魅力的な作品になりそうな気がする。
映画を構成する要素はさまざまあるけれど、脚本の重要さに気づかなくてはならない。脚本のせいで台無しになってしまった作品はとてもたくさんある。逆に、脚本にこだわれば、予算が少なくてもそれなりのものを作れるということを、この作品は示してくれた。ただしそれと同時に、もう少し直せばすごく映えたという思いも消えない。いまの脚本は、舞台でやると面白そう。映像はなによりも多くを語るのだから、カメラにさまざま委ねていいのが映画だと思う。その視点が惜しい。
筋書きは丁寧で、とくに後半は十分楽しめた。人格障害を抱える絵描き、老いを意識する絵本作家、臨床心理士で絵本作家の娘という三角関係が過不足なく描かれている。そこには全体を包み込むような存在はなく、ひとりひとりがいい人でもあるし、迷惑なところもある。そのリアルが後半の緊迫感につながっていく。ラストも、物語の後始末を急がず、時が解決させてくれるちょっと手前まで導いて終わる。そのセンスがいい。
ただ、カメラには、彼らを優しく見つめる目を持ってほしかった。目線がどうも他人行儀な感じがする。関係性の冷たさを示すとしたらそれでもいいのだけれど、静かな心の動きをもっとじっくりと観たかったと思う。もうひとつスクリーンに映えないのが残念。
主演の田中圭の演技が光る。