2007-01-01から1年間の記事一覧

映画と非映画の間はなにか 『大日本人』

粗筋を明らかにしないという商業的理由があるようなので、(書くほどの筋もないので)省略する。 巷で賛否両論吹き荒れる作品である。大日本人を名乗るが小市民という、世界の縮図のごとき、社会風刺的なギャグが差し込まれる。風刺は好きなので、笑わなかっ…

酔って候、映画観て候

さっき電車で、泥酔して早漏なおじさまを目撃しました。さすがにあれにはなれない。 せっかく会社が休みなのに会社の人と水道橋で飲んじゃって、痛飲暦が止まらないのですが、映画も観ました。『16[jyu-roku]』。初子の関連作品ということで、ほとんど東亜…

映画力で乗り切る 『パッチギ! LOVE&PEACE』

アンソン(井坂俊哉)の一家は東京にきていた。彼の一人息子・チャンスが難病にかかり、その治療先を求めてのことだった。東京のある病院で、アメリカでの検査を勧められたアンソンは、危険な銭稼ぎに手を出す。一方、妹のキョンジャ(中村ゆり)は、アルバ…

犬童美学の作品 『眉山』

咲子(松嶋菜々子)は、徳島で母・龍子(宮本信子)の手ひとつで育てられた。なぜ父がいないのか、東京で生まれ育った母がなぜ徳島で、身寄りのない生活を送っているのか。江戸っ子気質で過去と決別して生きる龍子は、咲子に多くを語らなかった。その母が癌…

寅さんから鬼太郎へ 『ゲゲゲの鬼太郎』

さて、気持ちも新たに鬼太郎だ。評判のよさはかねがね聞いていたが、期待値に違わぬ作品になっていた。 団地住まいの三浦家は、母を早くに亡くし、工場を解雇された父(利重剛)は家族を養う金の工面に苦慮していた。ある日、亡き母の結婚指輪を質に入れよう…

反面教師として存在意義ありか 『俺は、君のためにこそ死ににいく』

今年ワーストワンの有力候補だ。あまりに出来が酷すぎて、いま、どうやって感想を書いたらよいかと悩んでいる最中である。 まず、粗筋を書くのに苦労する。要するに、知覧の特攻隊が母のように慕ったという食堂のおばちゃんと若い兵隊たちの交流を描いたもの…

はっちゃんはタナダ監督に救われる 『赤い文化住宅の初子』

宇野初子(東亜優)、中学3年生。父親は幼いころに蒸発し、母親に死なれ、いまは兄(塩谷瞬)とふたり暮らし。兄は高校を中退し工場で働くが、満足な金が手に入らないばかりか、外で酒を飲んで帰ってきたり、女を買ったりで、初子のやりくりは苦労が耐えない…

5月の衝動買いハリケーン

嗚呼、アパートの契約更新をしたり、会社の人と遠出したりしたというのに、どうしてまたこんなに購買欲がいや増してしまうものか。 [rakuten:book:12046663:detail] 産経新聞で紹介されていて、どうしても欲しくなった一冊。GHQ専属カメラマンがとった日本な…

キュートすぎるバカムービー 『机のなかみ』

高校3年生、父親と二人暮しの望(鈴木美生)には、どうしても行きたい志望校があった。でも、今の成績ではとても適えられない。そこで父親が呼んだのが、家庭教師の馬場(あべこうじ)だった。馬場は彼女の気を引こうと巧みな話術を展開するが、望はあくまで…

すごくはないけど、中江監督はエライ 『恋しくて』

高校に入学して栄順(東里翔斗)が出会ったのは、かつて近所に住んでいた幼馴染の加那子(山入端佳美)だった。ついでに加那子の兄・セイリョウ(石田法嗣)にも同時に出会ってしまい、彼の思いつきでバンドを組まされ、しかもボーカルに指名されてしまう。…

作風を変えて、その結果は 『あしたの私のつくり方』

寿梨(成海璃子)は、どこにでもいるような父親と母親、そして兄と暮らしていたが、両親はなにかと言い争いが絶えない。そのなかで自分はかすがいとしての役割をもち、私立中学を受験し、家族の均衡を保とうとする。しかし受験に失敗し、両親は離婚する。数…

圧巻のピアノ演奏 『神童』

うた(成海璃子)は、言葉を覚えるより早く譜面を読め、ピアノが弾けた。天才だ。しかし父亡き後邸宅を追われ、ピアノも抵当に入れられたため、小さなアパートで英才教育の缶詰にされている。思春期の故か、母親には反抗的で、ピアノを弾く気になれない。し…

感動の頒布会 『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』

最近、「昔」としての昭和の捉え方に変化を感じている。僕の生まれたころ(1980年代)から物心ついたころの「昔」といえば間違いなく戦中戦後だった。とにかく貧しかったとか苦しかったとかいう負の部分が前面に押し出されていた。それが00年代に入ると、『…

市川準インタビュー

http://www.ocn.ne.jp/toku/tj/ 新作『あしたの私のつくり方』の公開を前にして、インタビュー動画が公開されています。DVDの特典映像はあるものの、公のメディアに登場するのは極めて稀ですので、注目してください。ぼそぼそっと語る独特の語り口はいつもと…

意外にも犬童映画の真骨頂 『黄色い涙』

僕の頭の中で犬童一心といえば、いつまでも『大阪物語』である。もっともあの作品では脚本の担当だったのだけれど、その後、彼がやはり池脇千鶴を主演にして長編を撮ったということで(『金髪の草原』)、記憶が決定的となった。そして『ジョゼと虎と魚たち…

ひだまりのなかの傑作 『檸檬のころ』

高校3年。加代子(榮倉奈々)は東京の大学に進学することに決めていた。東京に行ってみたかった。ブラスバンドの指揮者として野球部の最後の試合を見届けたある日、エースの富蔵(柄本佑)から告白を受ける。はじめはぎこちなくも徐々に打ち解けてゆくふたり…

ホリキタ! 『アルゼンチンババア』

待っていた。みつこ(堀北真希)は待っていた。母親が死んだときからどこかへ行ってしまった父さん(役所広司)が、ただいまと言って、冷蔵庫に冷やしてあるビールをぐいと飲み干すのを。でも、いつまで経っても戻ってこない。そればかりではない。近所にあ…

独特の映像感覚 『蟲師』

先日の大相撲、千秋楽の優勝決定戦は実に見応えがあった。がっぷり四つに組んだ大一番を見たかったとしたら肩を落としたかもしれないけれど、支度部屋からの一連の流れは、それそのものが大一番だったと感じられた。心理戦において、白鵬が勝っていた。しか…

映画を観る街、渋谷 『渋谷区円山町』

急病で療養してしまった数学教師の代用として、由紀江(榮倉奈々)の学校に山本(眞木大輔)が着任した。頭はボサボサ、メガネも似合わないと由紀江は愚痴をこぼすが、嫌い嫌いは好きのうち。山本が円山町のラブホテルに入っていく様子を目撃して以来、徐々…

ただ大きいだけだった 『蒼き狼 地果て海尽きるまで』

のちにチンギス・ハーンと呼ばれる男・テムジンが、わけありの出自を経て、諸部族との抗争の末、全土を統一するまでを描く。母がテムジンを産むに至った数奇な運命、妻がやがて同じ運命をたどる宿命、その子。彼らとのやり取りのなかで、湿っぽい人間ドラマ…

痛飲続き

ここのところ多忙を極めており、ついここにも何も書かずじまいになりがちだ。書き物が生業の人ならまだしも、あたくしのようなサラリーマンはくたくたになったら寝るだけだ。あ、でもその前に飲みますがね。この世には、ストレスが溜まると痩せる人と太る人…

あの夏の日をもう一度

市川準監督の最新作『あしたの私のつくり方』のサイトもすっかり出来上がって、一か八かの上映を待つばかりとなっていますが、一足先にリバイバル上映があるようです。 それも、かの『大阪物語』。大阪のシネフェスタなる映画館の閉館に伴い、古い作品を上映…

悲しみなき絶望 『カインの末裔』

母親を殺して少年院にいた棟方(渡辺一志)は、そこを出ると、川崎の工業地区「夜光」の小さな工場に雇われる。経営者の大森(飯田孝男)は脳を患って一線から退き、いまは毛(古田新太)が仕切っている。そして時折現れる松村(田口トモロヲ)。彼はこの一…

『素敵な夜、ボクにください』も観た

こちらはまじめには書きません。カーリングといえば、1年前、『シムソンズ』という名作に出会った。あの作品を前にして、もうカーリングの映画はなくたってよかったのだ。あらゆる要素において、『シムソンズ』が勝っている。わざわざ新宿まで観に来ることも…

ぐっとくる掘り出し物 『秒速5センチメートル』

転校生としてともに東京の小学校にやってきた貴樹と明里は、ともにお互いの最大の理解者であり、惹かれあう寸前の存在だった。しかし卒業式を最後に、明里は遠くに引っ越していった。貴樹もまた引っ越しが決まり、伝えたい多くのことを抱えて、貴樹は明里の…

2月最後の衝動買いハリケーン

最近、すっかり節約生活も板につき(すべては夜のアルコールに消えていくのだが)、あまり消費行動を起こしていないもので、ちょっと買うと大事件を起こしたつもりになります。でも、下の購入品に加えて映画を観たり前売りを漁ったりしたから、やっぱり大量…

多面体的な表現という醍醐味 『となり町戦争』

東京から地方都市の旅行会社にやってきて1年になる北原(江口洋介)は、町の広報誌に奇妙に記事を見つける。となり町と戦争をする。期日も決まっている。意味が分からない。だいたい、開戦日を迎えても町は平穏なままだ。しかし、次号の広報誌は、戦死者の数…

程よい緊張感が持続する 『フリージア』

近未来、戦時下で国軍の行動が活発化する我が国。凍結爆弾実験の疑惑を知る叶(玉山鉄二)は、敵討ちを許す法律の執行代理人として活動している。ぼやぼやしているようで、誰よりも的確に相手を射殺する能力を有している。困難な事案を次々とこなしたある日…

二度童の青春映画か 『魂萌え!』

敏子(風吹ジュン)は、夫に定年退職からわずか3年で先立たれた。葬儀を終えて帰宅すると、夫の携帯電話が鳴っている。かけてきたのは謎の女(三田佳子)。よく聞けば、敏子に隠して10年も浮気をしていた相手だという。一方、敏子の子供たちもいい年をしてだ…

ちょっと小津的な大坂映画 『おばちゃんチップス』

修平(船越英一郎)は会社を辞めて、言語学者になるべく大阪にやってきた。学長のつてで、非常勤講師として勤務できることになったからだ。下宿先は下町の強烈なおばちゃん・千春(京唄子)が営む「樋元商店」。そこに集うおばちゃんの群れ、地上げ屋(河本…