キュートすぎるバカムービー 『机のなかみ』

高校3年生、父親と二人暮しの望(鈴木美生)には、どうしても行きたい志望校があった。でも、今の成績ではとても適えられない。そこで父親が呼んだのが、家庭教師の馬場(あべこうじ)だった。馬場は彼女の気を引こうと巧みな話術を展開するが、望はあくまで勉強に必死だ。馬場には興味ない。なぜならば彼女には、友人の彼氏という好きな人がいて、彼と同じ大学を受験しようとしているのだ。しかし、あえなく受験に失敗する。
この作品で言いたいことはふたつ。ひとつは本のうまさだ。馬場が家庭教師として招かれ、父親に「変なことにならないように」と忠告されるも、とうとう変なことになってジ・エンド。という流れを、馬場と望の双方を主人公にしたふたつストーリーで見せる。それで真っ先に思い出したのは『運命じゃない人』だった。しかし今作はもっとシンプルに、ふたつのストーリーと、それらが融合した後の展開で構成されている。
ここで見せたいのは後半の望のほうだ。前半であまり明らかにならなかった望の、いわば「机のなかみ」を、観客だけがこっそり観ちゃっているような、どきどきした感じがある。と同時に、そんな望のプライベートをまったく知らない馬場のバカさ加減を笑えるようにできている。そして事件発生後の望の狂気に近い行動や、とことん情けない馬場、さらには同じくらい情けない望の描写へと続く。
そこで注目したいもうひとつなのだが、なんといっても鈴木美生。いったいこの子は誰なんだ(なんかさっきも同じようなことを書いたっけ)、どこから来たんだと鼻息を荒くしてしまう逸材の登場である。あのかわいさったらない。序盤は大して魅力的に見えないのだが、時間を経るにつれて、中毒のように愛らしく見えてしまう。作品の公式サイトに「ポスト宮崎あおい」って書いてあって、たしかに17歳ぐらいのころのあの子に似てなくもない。だけど、21ぐらいのなっちっぽくもある。父親と一緒に入る風呂のシーンなんてもう! そんな鈴木美生はすでに22歳。中学生役といわれても信じそうだったのに。
前半はおとなしいお嬢さんの望だが、後半では内気でひとり悶々とする様子や、終盤では背水の陣で強くなって友人を張り倒したり、好きな人の横で号泣して捨てられないよう哀願する姿が見られる。ははあん、男もバカだけど、女も同じだけバカだよねえ。あんなに情けないヒロインになれる人材というのは、最近あんまりない。みんな演技が大人っぽくて、視線も強くて、プロなんだけど、ゆるさが足りないのよね。その点、鈴木美生にはゆるゆるの演技がある。うまい下手でなくて、「がんばったね」で評価できる、憎めない存在だ。