すごくはないけど、中江監督はエライ 『恋しくて』

高校に入学して栄順(東里翔斗)が出会ったのは、かつて近所に住んでいた幼馴染の加那子(山入端佳美)だった。ついでに加那子の兄・セイリョウ(石田法嗣)にも同時に出会ってしまい、彼の思いつきでバンドを組まされ、しかもボーカルに指名されてしまう。しぶしぶながらも、加那子の励ましで栄順は歌い始める。やがて島のバンドコンテストで優勝した彼らは、東京のコンテストへの出場権を得るのだが、セイリョウにまつわる急展開が起こる。
中江裕司といえば『ナビィの恋』であり『ホテルハイビスカス』である。いってみればシリーズ3作目となる今作なのだが、正直なところ、これまでに比べれば面白みに欠ける。たぶん、僕が期待している中江映画とのちょっとした違いのせいなのだろう。つまりこれまでの場合、東京のプロの役者が必ず中心にいて、かれらとウチナーの人びと(プロもアマも含めて)との絡みが絶妙だった。現地の人びとからすれば感じ方も違うのかもしれないが、この異文化交流は、シチュエーション・コメディのような発見をもたらしていた。
もっとも今作にそれがないというわけではない。しかし、東京から来たプロが石田法嗣だけで、あとはウチナーの人、しかも中心の若者たちはことごとく素人なのだ。さらには石田も現地の人という役どころ。異文化交流は、彼らバンドメンバーが東京に行くというところでやっとはじまる程度だ。中江映画の気を衒わない撮り方は、これまでの作品にどんぴしゃだっただけに、やや肩透かし感は否めない。
しかしながら、作品としてかなり満足のいくものになっているのは間違いない。とくにラスト15分ぐらいだろうか。上京して右も左も分からないなか、加那子から手紙が届き、歌ができる。最後は相変わらずのハッピーエンドに、BEGINによるおまけつき。この流れがかっこいい。なかでも加那子の母が歌う"このすばらしき世界"にのせた映像は、これまでと雰囲気を変え、加那子の心境をうまく表現していてぐっとくる。
さて、この作品で注目したいのが、山入端佳美だ。観れば必ず「この子は誰だ」と思うはず。どうやらオーディションで選ばれた新人のようだ。よぉく観ればそれほどの美人でない(失礼)のだが、スクリーンでの映え方がすごい。脱がせたり、屁をこかせたり、躍らせたり、歌わせたり、空手の型をさせたり、キスをさせたり。監督はやりたい放題なんだけど、その期待に見事に応え、かえって監督を恥ずかしがらせたのではないかと推測している。そしてその監督が、彼女をたいそう美人に撮ってやろうとした痕跡を感じる。中江監督、あんたは偉い。
(追記)声の出演で、あの登川誠仁が登場します。あれは笑ったなあ。注目。