ただ大きいだけだった 『蒼き狼 地果て海尽きるまで』

のちにチンギス・ハーンと呼ばれる男・テムジンが、わけありの出自を経て、諸部族との抗争の末、全土を統一するまでを描く。母がテムジンを産むに至った数奇な運命、妻がやがて同じ運命をたどる宿命、その子。彼らとのやり取りのなかで、湿っぽい人間ドラマも見せた大河ドラマに仕上がっている。
お恥ずかしいことに、澤井信一郎は初見。教科書のような作品をつくる人という評判を聞いて楽しみにしていたのだが、日本映画の教科書は、いよいよ別の人物の著作となったか。面白くなかったのは、メイクがみんな同じで、誰が誰なのか区別がつかなかったせいだけではない。日本人の感性では、モンゴルの広野はあまりに大きく、観客が落ち着く暇を与えられないせいではないかと思う。
この二十数年を庶民として暮らしてきた身としては、ある程度の狭さがないと、ほっとしない。漫画喫茶の個室が快適なのは、トイレの広さに似ているからだと思う。モンゴルにもゲルがあるけれど、ゲル内でのシーンはさほど多くないし、大事なシーンであればあるほど乾いた広野だ。ついでに言えば、食事のシーンが皆無なのもいけない。
それでいてあの脚本では、観るものを損な気分にさせてしまう。舞台がモンゴルだから感覚が麻痺していたものの、これが戦国時代の日本の話だったらと思うとゾッとする。とにかくスケールがでかくて、だーっといってどーっといって圧倒させるだけの作品だった。