映画を観る街、渋谷 『渋谷区円山町』

急病で療養してしまった数学教師の代用として、由紀江(榮倉奈々)の学校に山本(眞木大輔)が着任した。頭はボサボサ、メガネも似合わないと由紀江は愚痴をこぼすが、嫌い嫌いは好きのうち。山本が円山町のラブホテルに入っていく様子を目撃して以来、徐々に恋の芽生えを自覚していき、強引に渋谷でのデートを敢行する。あるいは別の学校では、いじめに会う糸井(仲里依紗)を、有吉(原裕美子)が救い出し、渋谷に連れてくる。帰りたくないという糸井に付き合っていくつかの晩を渋谷で過ごす。普段は孤独でつんとした感じの有吉だが、実は糸井に同じものを感じていた。
手持ちカメラでのゲリラ撮影の数々は、テレビですな。深夜番組として放送すれば、なるほどそれなりの出来のよさと言っても構わないけれど、しかし先日NHKで放送していてばんえい競馬のドキュメンタリーなど見ると、その映像のよさについ感激してしまう。映画であろうとテレビドラマであろうと、評価が高くなることがないのは、運命というほかあるまい。
脚本がもうひとつ物足りないのはさておき、こと映像に言及すれば、テレビ的になることに批判半分同情半分といったところだ。これは映画を観ながら気づいたのだが、そもそも渋谷の街が映画撮影に向いていない。物理的に、撮影スペースを確保できないし、人の流れを制御できない。渋谷は映画を観る街であっても、つくる街ではなかったのだ。それは後半、明け方の風景のシーンを観るとよくわかる。この部分だけ、固定カメラで撮影されているのだが、余計なものを映すことなく、美術として成立している。どうしても昼間の渋谷を映画にしたければ、シーンをほんの少しにするか、アニメーションにしていくしかなかろう。
ところで、この作品の直前に見ていたのがモンゴルものだったこともあり、スケールの小さな作品に、正直言ってほっとした。ほとんど榮倉奈々がかわいけりゃそれでいいやと思って、その欲求は適えられたので、贅沢は禁物か。改めて思うが、身長高いなあ。オムニバス形式とは知らず、後半に彼女が出てこなくて残念がっていたところ、実は後半のほうが観るべきものが多く、仲里依紗のよさが印象的であった。キャスティングがうまくいった作品だ。