寅さんから鬼太郎へ 『ゲゲゲの鬼太郎』

さて、気持ちも新たに鬼太郎だ。評判のよさはかねがね聞いていたが、期待値に違わぬ作品になっていた。
団地住まいの三浦家は、母を早くに亡くし、工場を解雇された父(利重剛)は家族を養う金の工面に苦慮していた。ある日、亡き母の結婚指輪を質に入れようとしたところ、怪しい光を放つとんでもない石を見つけ、無意識のなかでそれを盗んでしまう。実はその石、妖怪の世界で百年の怨念を溜め込んだ「妖怪石」と呼ばれるもので、ひょんなことからねずみ男大泉洋)が盗み出したものだった。父は息子の健太(内田流果)に石を託した直後、逮捕される。やがて妖怪世界の権力闘争により、妖怪石を強奪せんとする集団が現れ、助けを請う健太に応じた鬼太郎(ウエンツ瑛士)が立ち上がる。
さすが松竹、いいものをつくる。子供向けの良質な冒険活劇になっているのと同時に、松竹のこれまでのシリーズ作にある家族像を踏襲しており、大人向けの娯楽映画としても十分に価値がある。釣りバカシリーズを3作撮った本木克英監督の手腕が光る。脚本の羽原大介もさすが、手堅く決めている。
働かない妖怪の鬼太郎は、フーテンの車寅次郎と重なる。鬼太郎は人間界の女の子・実花(井上真央)に恋心を抱くが、人間との恋愛はご法度となっているため、作品の最後には、結ばれないように目玉おやじがモノワスレを使って記憶を操作してしまう。それが寅さんの失恋とよく似ているのだ。実花が今回のマドンナなら、さくら=猫娘田中麗奈)であり、おいちゃん=子なき爺(間寛平)、おばちゃん=砂かけ婆室井滋)、タコ社長=ねずみ男であろう。もしかしたら御前様=目玉おやじかもしれない。
もちろん異なる点もある。寅さんとさくらは兄妹だが、鬼太郎と猫娘は他人だ。目の前にこんなに甲斐甲斐しく可愛らしい娘がいながら、鬼太郎は人間に恋をしてしまうのだ。齢350歳にして青年の姿を保ち、なおかつ死なない妖怪の鬼太郎のことだから、同じ過ちをこれからも繰り返すに違いなく、猫娘との関係は何百年もこのまま続いていくのだろう。この冒険活劇がシリーズ化されることを願ってやまない。来年から『釣りバカ日誌』との2本立てでどうでしょうか。
今回のキャストがまた非常にすばらしい。井上真央がどうしてもかわいくてたまらん。さらに田中麗奈が大変だ。相変わらずあの脚は危険だ。どうしてくれよう。男性陣とて、大泉洋間寛平西田敏行谷啓と、名演技の連続である。利重剛も今回は悪くない。何度でもいうが、これをシリーズ化してください、松竹さん。