映画力で乗り切る 『パッチギ! LOVE&PEACE』

アンソン(井坂俊哉)の一家は東京にきていた。彼の一人息子・チャンスが難病にかかり、その治療先を求めてのことだった。東京のある病院で、アメリカでの検査を勧められたアンソンは、危険な銭稼ぎに手を出す。一方、妹のキョンジャ(中村ゆり)は、アルバイト先の焼肉屋でスカウトされ、芸能界に進むことに決める。少しずつ大きな仕事をもらえるようになる一方で、朝鮮人であるがためにさまざまな辛酸を舐めることにもなる。
あらすじを書くのに一苦労の作品である。前作の場合、日本人が朝高の女子学生に一目ぼれしたところからはじまって、時代の風情や友情、在日朝鮮人たちの現実がひとつの線の上で表現されていたのだが、今作はいくつかの流れが混線していて、すっきりしていない。アンソンとチャンスの物語にするには、キョンジャと佐藤(藤井隆)がでしゃばっている。あるいは、実はキョンジャの物語のほうがずっと面白いのに、そこにチャンスが混じると焦点がぼけてしまう。今作には、語り部がいないのだ。狂言回しとしての佐藤の存在はあるのだが、作品は佐藤の視点で進むことはない。
さらに、前作のような日本の若者というフィルターが取れてしまった分、在日の現実がむき出しの状態で表現されているようだ。アンソンが佐藤という日本人の友人と出会う一方で、キョンジャは出自を隠したまま仕事をすることに違和感を覚え、また差別的な冷遇を受けることもあった。そこに父・ビョンチャン(風間杜夫)の戦時中の出来事が重なって導入され、遺恨の作品という印象がどうしても強くなってしまった。それが今回のタイトルにある「ラブ・アンド・ピース」へと昇華していくのかと思いきや、ラストになっても差別と暴力が循環しており、かなり残酷な作りなのだ。
しかし、ことキョンジャの物語に限ってしまえば、かなり魅力あるものになっている。ラストでキョンジャに出自をカミングアウトさせ、戦争観について語らせてしまったのが少々残念なのだが、ビョンチャンの物語とのつながりとして必要不可欠だったのかもしれない。実はこのくだり、監督の芸能界、その世界を作ってきた在日朝鮮人へのオマージュとして成立しているんじゃないかと思っている。舞台挨拶のシーンの編集は面白かった。キョンジャを主役にした作品構成にすれば、ぐっと引き締まったに違いない。
ところで、キャストのひとりひとりが、とても生き生きと演じているのが印象的だった。チョイ役で有名な役者が多数出演しているけれど、目立たずでしゃばらず、しかし魅力的に撮られている。井筒和幸の映画に出たい、パッチギに出たいという意思が作った作品に感じられる。強い映画力があり、決して印象は悪くない。