ちょっと小津的な大坂映画 『おばちゃんチップス』

修平(船越英一郎)は会社を辞めて、言語学者になるべく大阪にやってきた。学長のつてで、非常勤講師として勤務できることになったからだ。下宿先は下町の強烈なおばちゃん・千春(京唄子)が営む「樋元商店」。そこに集うおばちゃんの群れ、地上げ屋河本準一)、隣のアパートの女(misono)の騒動に巻き込まれながら、はたまた大学の歪んだ社会に揉まれながら、新しい人生を着実に歩みはじめる。
監督の前作『タナカヒロシのすべて』をあまり評価できなかったのですが、今回は全体のつくりが格段に向上していて、目を見張るものがあった。独特の胡散臭さがかなり抜けていて、脚本もうまい。役者陣もとてもいいのだけれど、それだけに頼らない作品として十分に評価できる。ただし、終盤の強引さにやや難が残ることは書き留めておく。
今回、ちょっと小津的なのだ。前半、船越がmisonoにイントネーションを教えるシーン。カウンターに座ったふたりが、東京弁大阪弁を交互に発音していく顔を、カウンターの向こうのカメラがひとつひとつ捉えていく。まるで笠智衆がバーで酒を酌み交わすシーンを見ているようだ。ほかにもずいぶんなローアングルを使うなど、意識したんじゃないかと勘ぐってしまう。きっと小津ならもう少しどろっとした会話を脚本にねじ込むだろうけれど、しかし大阪で映画を撮るなら、おおよそこんな雰囲気のものになったと想像できる。
ところで出演にも少し言及しておくと、あくの強い人がそろっているものの、その割にはさらっとしている。演出にかなり力を入れている印象がある。船越はさすが。徳井優も久しぶりにいいものを観た。そしてなんといってもmisonoだ。なかなか立派な演技だった。しかし初めてのことだから、クランクインのころは硬かったに違いない。後半、それを想起させるシーンがある。このあたりから撮影を始めたのではないかと。だとすれば、本人もすごいが、監督の演出力もすごい。
しかし太い。とはいえほとんどのシーンが船越かおばちゃんとの絡みなので気にしなくてもいいのだが、宮地真緒と並ぶシーンだけはしんどい。あれはmisonoが悪いのではなく、宮地が細いのが悪い。おばちゃんの映画なのだから、おばちゃんに馴染むキャストで構成しないと。