二度童の青春映画か 『魂萌え!』

敏子(風吹ジュン)は、夫に定年退職からわずか3年で先立たれた。葬儀を終えて帰宅すると、夫の携帯電話が鳴っている。かけてきたのは謎の女(三田佳子)。よく聞けば、敏子に隠して10年も浮気をしていた相手だという。一方、敏子の子供たちもいい年をしてだらしない。夫のため、家族のためにと思って暮らしてきた数十年。見返りを求めていたつもりはなかったものの、なんとも虚しいものがある。敏子は家を飛び出して、しばらく見ていなかった世の中を体いっぱいに吸収しはじめる。あくまでも自分のために。
僕にとっては悩ましい作品だった。はっきり言えばあんまり趣味じゃない。ということは見る前からよく分かっていたのだけど、阪本順治監督作品だし、なんか面白いもん撮ってくれるんじゃないかと期待して劇場に行ったのですけど、やっぱりぐっと来るものはなかったのですね。思えば『顔』『KT』以来、いつも期待しているのだけれど、そのたびにいまひとつ相性が合わない。今作も後半はテンポもよく進行していて、それなりに面白かったけれど、周囲の観客ほど楽しめてはいなかったよう。
そう、問題は周囲の観客が楽しそうな観ている点なのだ。ちなみに年齢層は見事にオーバーエイジ。出演者たちと同世代の観客たちが、作品に共感し、非常に満足している。この作品のテーマがまさにそこにあるように思える。
高齢化社会、寿命は長いし、年寄りはなんたって元気だ。彼らには青春がもういちどやってくる、かも知れない。ないかもしれないけど。老人は年を経るごとに子供のようになっていく。人はそれを「二度童(にどわらし)」と呼ぶ。とすれば、幼稚園児のようになる前に、必ず17才が訪れる。この作品は、その2度目の17才を楽しむ術をレクチャーし、観客に17才を呼び込むためにある。
つまり僕が楽しめないのは、1度目の17才以外を知り得ないからなのだ。頑固なことを言って申し訳ないが、やっぱり僕は1度目の青春映画のほうが好きだ。