さよならヒーロー 『グエムル漢江の怪物』

ポン・ジュノしてやったりといった作品でした。彼にソン・ガンホ殺人の追憶)とペ・ドゥナ(吠える犬は噛まない)とくれば鉄板だと、過度の期待をして劇場に向かいましたが、それでもしっかり楽しませてくれる。あの監督は底なし沼の才能ですな。
漢江で売店を営む男(ソン・ガンホ)は、謎の巨大生物に娘(コ・アソン)を誘拐、いや餌場に連れられてしまう。彼女が生きているのを知っているのは家族だけ。あとは誰しも、彼女を死んだことにして、逆に頭がおかしいのはウイルスのせいだと男は拘束されてしまう。家族はおバカちゃんばかりだけど、でも彼女を助けられるのは家族のほかに誰ひとりいない。怪物と、権力と。壮絶な闘いが始まります。
恐れずに書けば、ハッピーエンドでなければ、ヒーローもヒロインもいません。誉められず、報われず。実に監督らしいのですね。
善と悪とを同時に持つ不完全な人間を捉えるうまさが、これでもかというぐらいに凝縮されていました。具体的なところを挙げるには多過ぎて、ノート片手にもう一度観ないといけませんが、大枠を既存の怪物映画の撮り方で踏襲しながら、監督らしい笑いのあるシーンを詰め込んでいて、見事です。一家でカップ麺が出来上がるまでじーっと待つような静の描写をこのジャンルにぶちこむなんて。あるいはその直後、腹ごしらえと男の夢とが混同して、いないはずの娘が海苔巻きにかぶりつくのですが、あれは『リンダリンダリンダ』のワンシーンに似ているなあ。ほんとに一本の映画なのか?DVDを買って勉強できますな。
まさにポン・ジュノ組揃い踏みといったコンビネーションでしたが、出演陣の中でずば抜けていたのは、コ・アソンでした。あの輝きはすごい。久しぶりに出てきたなあ。日本でいうと多部未華子みたいです。注目ですよ。