「ブラザーフッド」なのか「太極旗を翻して」なのか

この作品には無条件で度肝を抜かれました。おそらくは朝鮮戦争(韓国では韓国戦争と呼ぶとか)の前線というのは本当にあんな感じだったのだろうし、あるいはもっと酷かったのかもしれない。目の前での爆発で兵隊は吹っ飛んでいくし、顔面が燃えていたり、銃弾が迫ってくる様子もややデフォルメして表現されており、黒焦げの遺体や蛆虫、巨大なセットなども含めて、その迫力には圧倒されるばかりです。しかしそこには戦争に対する美徳は一切排除されており、その残忍さが浮き彫りになります。果ては兄弟愛さえも残酷に見えてくる。そんななかでは、冒頭と最後に登場する現代のシーンが唯一の救いです。カット、カメラワーク、演出、美術、音楽、脚本。あらゆる分野でお見事です。よくあれだけ壮大なスケールの作品を2時間半でうまくまとめましたな。
以上がだいたいの感想です。で、この作品は日本での公開が決まってから、「ブラザーフッド」という邦題がつきました。これ、原題とはずいぶんと違ったものですよね。原題を直訳すると「太極旗を翻して」。韓国メディアの日本語サイトではこのタイトルがしばらく使用されていました。
当然、現地で呼ばれているタイトルの意味こそがこの作品の真の主題でしょう。「太極旗」は大韓民国の国旗なわけですが、作品を見れば分かりますが、このタイトルには、ラストに登場する「旗部隊」の旗の存在を暗に思い出させる効果があります。単純な愛国映画ではないし、北を単純に敵視することもまた難しいという、歯がゆさと悲しさを滲ませるのです。
ただ、われわれ日本人にはピンと来ない世界ですね。まずああいう徴兵からして、日本ではかつてありえない状況ですから。それに、韓国ではある意味当然視されるはずの濃厚な血縁愛が、日本人には新鮮というか、非常に強烈なインパクトとして残るのですよね。そんなわけで、フィルムが日本に渡ってきたところで、なんと作品の主題が変わってしまった。でもそれでよかったのかしらというしこりが残りました。作品のクオリティが非常に高いので、本来の主題で売り込んでも十分通用するだろうなと。
これを観ると、アメリカの戦争映画がいかに生ぬるく仕上げてあるかが分かります。