小津+ギャグ+ダメ人間= 『全然大丈夫』

古本屋の息子・照男(荒川良々)は植木屋に勤めてはいるが、30歳を目前にしてなおふらふらしていてだらしなく、ホラー趣味で他人を怖がらせることだけに執念を燃やしている。一方、友達の小森(岡田義徳)は病院清掃の管理者として真面目にこつこつ働く。照男のくだらないいたずらも手伝うが、そろそろこんなこともしていられないと思っている。ある日、小森の職場のパートとして、負のオーラ漂う木下(木村佳乃)がやってくるが、半端ない不器用さで、いつも小森を心配させる。
粗筋を書くのに苦労する。映画関係のポータルサイトではもっと細かい筋も掲載されているのだが、あれらの文章を書けた人はえらいと思う。この際、筋はあまり深く考える必要はない。なんとなく働いて、なんとなく恋をして、なんとなく喧嘩したり、なんとなく怒られたりしながら、結局、人として成長したのかどうか定かでない人びとの物語である。ダメさ加減はどこまでもループするけれど、しかしほんのわずか、自意識からの解放を感じられなくもない。その微妙なところが、脚本のうまさだ。淡々とした流れが、小津を想起させる。
ただし、この映画の半分以上がナンセンスギャグでできていることは強調しておきたい。劇場ではくすくす笑いが聞こえたけれど、もっとどっと沸いてもいいんじゃないかというぐらい、面白い。照男の自分大好きワールドがはじけている。彼と近いタイプの友人を持つ身として、友人の行く末を案じなくもない(そういえば設定上、ほとんど同年代だ)が、それさえも笑ってしまえる雰囲気がある。蟹江敬三がまさかの駄目押しで観客をなぎ倒すのも痛快である。
まったく感動しない作品だが、感動させないようになっていることを含めて、意外とレベルが高い。さまざまな要素を、つなげない素振りでつないでいく脚本がお見事。木村佳乃がいままでにない役どころをしていて、これがまた似合うわけだが、それでも上品さが残ってしまうのが愛嬌というものだろう。