さよならだけの人生へ 『クワイエットルームにようこそ』

ライターの明日香(内田有紀)は多忙な毎日を暮らしていたが、気がつくと、真っ白な病室のベッドで拘束されていた。そこは精神科病院のなかでも隔離された"クワイエットルーム"だった。どうして隔離されたのか。やがて同居していた鉄ちゃん(宮藤官九郎)が面談に訪れ、酒を飲みながらの睡眠薬オーバードーズ(多量摂取)による中毒を起こし昏睡状態になり、自殺の疑いを受けられていることを知らされる。病院には、さまざまな障害により入院を余儀なくされている女性と、彼女たちを厳格に管理する看護師がいた。
こんなにもたくさんの人がいるのに、こんなにも孤独な空間。患者のひとりはその病院についてこう言う。誰もが、周囲の患者の症状をよく知っていて、どこがよくないのかも知っている。いちおう、自分の症状についても自覚しているつもりになっている。少なくとも、自分は大丈夫だと思っている。でも、それは違う。全然大丈夫じゃない。
そんななか、最終的には明日香に退院許可が下りるのだが、それは彼女には、自分がどのように駄目だったかに自覚的だからだ。退院しても、元の生活に戻るだけでは、再入院という循環が訪れる。だから彼女、新しい人生を送ることに決めた。
その病院の患者たちには、暗黙の掟があった。退院したら、入院時の仲間を捨てること。盛大に送り出してもらうけれど、メッセージカードはすぐに捨てる。「1時間以内に燃やさなければ、この色紙は爆破します」。いちばんの理解者だったミキ(蒼井優)からの最後のメッセージだ。病院の外にはどんなに素敵な出会いがあろうとも、ミキのような患者には、さよならだけが人生だ。彼女が退院する日は、まだ遠い。
松尾スズキの製作者としての作品を初めて観た。全体的にそつがないのだけれど、もうひとつ心に響くものが足りないのが残念。小劇場の雰囲気と僕との相性がよくないのも一因だと思う。もうひとつ映画らしさに欠ける気がするのだ。らしさだけではなにも生まれないのだけれど。どうしてもいろんな角度から撮りたくなるものなのかしら。
しかし、出演陣の女性たちがとてもよい。演出力の賜物なのだろうか。内田有紀は映画界の新しい素材の登場である。蒼井優も久しぶりに魅力的だった。そして、ブルジョア病室のサエちゃんこと高橋真唯だ。やや脳に障害が出た拒食症患者を演じているのだが、面白みがあって、なによりとてつもなくかわいい。顔の一部のアップだけで彼女と分かる、得な存在なのだなあ。