スーさんの卒業式 『釣りバカ日誌18 ハマちゃんスーさん瀬戸の約束』

スーさんこと鈴木建設創業者・鈴木一之助(三國連太郎)は、社長を退任して会長になった。その就任挨拶のとき、壇上でスーさんは頭の中が真っ白になり、なにも言えなくなってしまう。その危機はハマちゃん(西田敏行)が見事に救ったが、大きく落ち込んだスーさんが、翌朝、自宅から姿を消してしまう。すぐさま捜索に向かったハマちゃんがたどり着いたのは岡山。そこでは、海岸を埋め立てる巨大施設の建設を巡り、業者と地元住民が対立を深めていた。その業者とはなんと、鈴木建設だったのだ。
ああ釣りバカも20作目か。どれが好きかと言われてもちょっと困るけど、パート5のスッポン事件、パート13のホタルイカの唄は最強だ。ここ数年は監督を朝原雄三が担当。ただのギャグ映画にとどまらず、松竹らしいしっとりとした場面を取り入れてくれて、観ていて楽しく、また何年先でも色褪せない作品が多い。ただ、さすがにスーさんも年齢には勝てず、近年はほとんど釣りをしていない。ハマちゃんとの珍道中も、ゲストのストーリーを重視する構成になってしまった。もちろん、パート17のような秀作があるのも事実なのだが。
今回、この一連のシリーズに変化が訪れた。社長を退任しただけでなく、ストーリーの中心がふたりに戻り、スーさんが船釣りをしている。船の上で喧嘩をおっぱじめちゃうぐらい、スーさんは元気がいい。
ほかにもいろいろと積極的に動き回る。建設問題をめぐって、旧友がかかわっていることを知ったスーさんは、早速会いに行く。そして、建設は白紙撤回される。どんな手を使ったのかはラストで明かされるが、パート16で戦争を思ったのに続き、なにかやり残した仕事をひとつふたつと終えたような感じがしてならない。戦後復興期からこの国をつくってきたスーさんとその世代が、表舞台を去るにあたり、昭和的な開発からも手を引くことを示したのだろう。故郷を思うとき、その土地ならではの景観を欲する気持ちが強いのかもしれない。
そう、この作品はスーさんの卒業式なのだ。二度童という言葉があるが、もうスーさんは人生を卒業したのだから、これからは2度目の青春を謳歌していくに違いない。前作の感想のとき「マラソンの、いちばんしんどいところを超えた感じ」と表現したが、まさにそのとおりの展開が続いている。
しかし、まだシリーズは続く。卒業しても続けていくのは、生前葬をしていないからだ。今回、スーさんには大事なスピーチの場面が2度もあったのに、一言も喋らせなかった。それは、まだスーさんに辞世の句を言わせないためなのだと解釈している。
なんだかずいぶん湿っぽい作品のような感想だけれど、まったくそんなことはない。怪しげなハマちゃんの変装あり、ドタバタあり、取れるはずのない休暇あり、もちろん釣りあり、そして合体あり! 前作になかった合体が帰ってきた。ハチ(中本賢)の出番が少なくてちょっと残念。ぜひ次回は、漁船で通勤をもういちど。