作品にもっと衝動を 『22才の別れ Lycoris 葉見ず花見ず物語』

43歳、独身の川野(筧利夫)は、平凡でも、上司と先輩と友人に恵まれて、これまで働いてきた。ある日、医者に無精子症と宣告され破れかぶれになった彼のもとに、いつも通うコンビニの店員・花鈴(鈴木聖奈)が現れ、援交しようと誘う。名前に覚えがあった。誕生日にも、彼女が話す母親のことにも。川野には、高校の終わりから大学にかけて、付き合っていた女性・葉子(中村美玲)がいた。葉子は、別れて幾月も経たないうち、花鈴を産んだ直後に息を引き取っていた。
なごり雪』以来の伊勢正三シリーズであり、臼杵シリーズでもある。今回監督は、伊勢の出身地の津久見を交え、「22歳の別れ」をモチーフにした物語を作成した。前作は楽曲そのものを劇中に登場させず、詞の世界を映像化したものだったが、今作は楽曲を好きな女性にまつわる物語だ。いってみれば、楽曲は小道具であり、偶然を装った必然の物語の題材でもあるというわけだ。
津久見の川野と臼杵の葉子は、高校の自分に付き合い始め、ともに東京の学生になる。しかし葉子は東京での生活に息苦しさを覚え、22歳の誕生日に川野を置いて大分に戻ってしまう。後ろ髪を引かれながらも、見合いで地元の男性と結ばれ、すぐに葉子は子をもうけ、その子に命を託すように死ぬ。そのことが引っかかり、いまだに独身でいる川野のもとに、葉子の子が偶然現れる。その日は、葉子の命日であり、花鈴の22歳の誕生日でもあった。とてもよく組み立てられた筋書きだ。
しかし、その筋書きを全うするためにしか、映画が機能していないのが難点である。映像づくりで攻め続ける大林宣彦は健在で、彼岸花リコリス)やマフラーの赤がとても鮮やかだった。筧利夫はじめ、ベテランもよかった。けれども、ストーリー展開の強引さには閉口するし、CGも多用しすぎて安っぽい感じがする。そこまでしてこの作品をつくらなければならなかった理由はなんだったのか。いや、理由の裏にいろいろと事情があるにせよ、作品にしなければいけない衝動がもう少しあれば、もう少し状況が変わったのではなかろうか。
ところで、三浦友和がまたまた登場している。今回もよすぎる。ここまでどの作品に出ても面白いというのはどういうわけか。ちょっと怖いぐらいだ。