硬軟そろえた大河的佳作 『夕凪の街 桜の国』

終戦から13年、皆実(麻生久美子)は母(藤村志保)とふたりで暮らしていた。疎開していた弟を除いて、ほかの家族は皆、原爆で死んだ。自分は生きていてよいのかと自問自答する毎日。多くの人が抱える苦悩だが、誰もそれを打ち明けようとはしない。会社の同僚・打越(吉沢悠)に惹かれる皆実だが、幸せになってよいのかと自らを呵責する。それから半世紀、東京に住む弟の旭(堺正章)は会社を定年退職した。娘の七波(田中麗奈)は、最近父が謎の行動を取ることを心配し尾行すると、広島までやってきてしまった。
チルソクの夏』『半落ち』を観て、佐々部清作品とは相性がよくないと決めていたのだが、久しぶりに駄目もとで鑑賞した。この監督の作品を好まないのは、生粋の映画人にもかかわらず2時間ドラマ臭さを漂わせる点にある。語りに無駄が多く、せっかくの映像に語らせようとしない。今作も相変わらず、映像だけで表現できそうなところを台詞を増やしてカバーしたり、作品の流れに不要なカットがあったりしている。しかし、この監督はこの監督なりに、作品を進化させている。
皆実の原爆体験、妹の死、原爆症。七波の父の広島行脚、弟の恋愛とそれに反対する相手の両親、その反対を押し切って家を飛び出した恋人。原爆投下直後をほとんど捉えず、「その後」に集中した内容だからこそ、後遺症とそれを受け継ぐ者の病苦と迫害を表現できる。2部構成で2時間強、前半は苦悩する皆実を中心に、後半は七波をナビゲーターとして据え、多くの人びとの物語を表現する。そのひとつひとつが決して大袈裟にならず、説教せず、さらりと、広島の川の流れの如しである。
この作品の雰囲気をどこかで味わったことがあると思った。僕が子供のころのことだから曖昧なのだが、木下恵介『父』と松山善三『母』を2本立てでテレビ放映したことがある。あの特番の雰囲気がある。ストーリーもなにもかもまったく違うのだけれど、コミカルな『父』とシリアスな『母』(実際はそんな簡単なもんじゃないが)をひとつに合わせた感じがある。すっかり佐々部アレルギーが緩和してしまった。
ところで昭和33年の広島のセットはお見事だ。街の活気でさえ、セットで伝わるものがある。出演陣もほぼ誰も雰囲気を壊すことなく、印象がいい。田中麗奈は相変わらず乗っている。あるいは小池里奈がひときわ色っぽく、そして大人になって粟田麗にキャストが交代するというのもなかなかいい。