真に小学生向き 『ピアノの森』

祖母の体調が思わしくないため、東京から片田舎の町に引っ越してきた雨宮修平(神木隆之介)。父親はピアニストで、自らもそうなるよう、幼少から特訓をさせられてきた。転校先で、天真爛漫な少年・海(上戸彩)と出会う。彼は森に捨ててあったピアノを我が物とし、夜な夜な演奏を楽しんでいた。しかしそのピアノを演奏できるのは海しかいなかった。
いわゆる「ひと夏の冒険」的な作品で、いかにも夏休みにお誂え向きといったところだろう。というわけで、小学生が観るぐらいでちょうどよい。大人が見るにはあまりに本がよくない。車窓から森を見て「森だ」と言ったり、森のピアノを眼前にして「ピアノだ」と言ったりしてはいけない。大人の映画は。
おとなおとなとうるさくて恐縮だが、声の出演にしろピアノ演奏のアシュケナージにしろ、子供騙しにしては贅沢すぎる。なのに大人には子供っぽくて観られない。インターネットで評判を見てみると、アシュケナージがよかったという声が多く観られるが、だったらN響のDVDでも買えばよい。ピアノの音の背後でノイズが出るのを愛嬌とは呼べない。他人が弾いてますとアピールしてなんになる。わたしは真剣勝負の映画を観たかった。いったい誰にどうして見せたい作品なのか。
久しぶりに怒らせていただいた。深呼吸して話題を変えるが、上戸彩がよかった。キャラクターに乗り移ったとてもいいアフレコをしてみせてくれた。いっぽう、神木隆之介というキャスティングはよかったのだろうか。声変わりしちゃいけないとは言わないけれど、ずいぶんと繊細な年代を選んだものだと思う。ちいちゃん(池脇千鶴)にかんしては、ああこんな仕事も器用にできるんだなあと思った。所得の低そうな役柄を本当にかわいくしてくれる逸材だ。福田麻由子も新鮮でよかった。でも、そんな良し悪しでくだを巻ける小学生とは、友達になりたくない。