要領がよすぎやしないか 『ドルフィンブルー フジ、もういちど宙へ』

沖縄美ら海水族館には、何頭ものイルカがいる。そのなかでも、フジはちょっと変わっている。沖縄にやってきて30年、ほとんど芸を覚えなかったけれど、3頭のイルカを生み育てた。だから、ビッグマザーと呼ばれ、親しまれている。その水族館に獣医として赴任した植村(松山ケンイチ)は、飼育員同様の扱いの不満を持ちながらも、徐々に獣医としてのポジションを得られるようになる。ある日、フジの体調に異変が起きた。フジの尾びれをを切断しなければならない。植村は、フジに人工ビレを装着させることを思いつく。
新米のツンツンした獣医、はじめは協力的でなかった仲間たち、優しい上司、懐の大きな館長、謎の少女。ドラマとして申し分ないキャラクターを揃えた、手堅い作品だ。もっとも、実話を基にしたフィクションなのだから、申し分ないのは当然のことだ。むしろ、手堅くまとめすぎた観は否めない。まして、どんな子役も勝てないといわれる動物ものだ。しかも沖縄。ドラマとして面白くないわけがない。その素材を大事にしたという点で評価はできるけれど、映画ファンとしては物足りなさを覚える。
それは映画として、観客に語りかける何かが足りないからのように思える。松山ケンイチの存在感にしても演技にしてもいいと思うのだけれど、彼の人工ビレに対する執着(あるいはフジに対する愛情)へのプロセスというのは、いったいどんなものだったのか。そもそもなぜこの水族館にやってきたのか。ガールフレンドは何者なのか。というより、ガールフレンドはいらないだろう。まして西山茉希て。はじめから別れるの前提で設定されているとしか思えない。それらディテールをすべて蹴り飛ばして、フジの人工ビレプロジェクトがうまくいくことを担保にして、ぬくぬくとストーリーを展開させていく。それはちょっと要領がよすぎやしないか。
言い過ぎたか。しかし思うのは、テレビドラマにするにしては手間がかかりすぎているし、映像のクオリティからしても勿体無い。なのに、映画として観るには、もうひとつ面白みに欠けるのだ。前田哲監督にはいつも期待しているのだけれど、商業映画として手堅い手法が、なかなかいいように向いてくれない。いっそ松竹のマンネリのなかにどっぷりと身を委ねたほうが、いい作品を作れるのかもしれない。
話は変わるが、出演陣はとてもよかった。坂井真紀は渋い。永作博美は相変わらず色っぽいし、利重剛が今回はやけにいい。最近の彼はのってる。あと、田中哲司を見逃せない。いったい何本の映画に出演したのか。映画雑誌は彼の大特集を組んでいい。作品の調子を整える重要な人物になってやしないか。