飽くなき挑戦に感嘆 『転校生 さよならあなた』

一夫(森田直幸)は両親の離婚により、母親に引き取られて信州にやってきた。そこは一夫が幼いころに暮らしていた土地だった。転校した先には、幼馴染の一美(蓮佛美沙子)がいた。一夫は一美のことをほとんど覚えていなかったが、一美に連れられるまま、湧き水のある泉に案内される。その泉にうっかり飛び込んでしまったふたりは、体が入れ替わってしまう。数々の騒動を経たある日、一美の体に異変が生じる。
実は前作も含めて、初見である。騒動の数々はハラハラして見ていられないし、一夫は女というより女形だし、それを劇中で指摘しちゃった山田辰夫(つねに白塗り)は怖すぎる。それでも愉しく観られたのは、蓮佛美沙子のはつらつとした演技と、脇を固める役者陣の奮闘にほかならない。田口トモロヲでさえも。脚本のディテールをいろいろほじくるのはいただけない。少女趣味ど真ん中の作品として観られるべきだし、それ以前に見るべき対象は大きなお友達でないような気がするから。
鑑賞前に雑誌記事を読んだところ、撮影のコマのスピードが、シーンによって異なるのだという。読んだときは意味がよく分からなかったが、実際に観てみると、これがなかなか面白い。ストーリー以上にカメラに興味がいく。
コマ数を落とした(早回しに見える)部分で印象的なのは、体が入れ替わった直後、一美の家の晩飯。どれだけかつれているのかという勢いで、一心不乱におかずを争奪する家族。食事のシーンというのは、僕が映画を見るときの楽しみのひとつだが、お行儀はいまひとつだけど、なんだかみんな旨そうに食べるのだ。一美の食いっぷりも激しい。あるいは、病院を脱走するシーン。これはもう、古い映画のドタバタ劇を見ているのに等しい。一美の体がふらついているというのは、演技としては重要なんだけれど、このシーンについては極力省いておきたいところだろう。
つまり、見せたい部分と省きたい部分の加減を、コマ数の調整で表現しているのだ。今回、監督は撮影台本なるものを書いて望んだようだ。コマ数以外にも、かなり多くのカットでカメラが傾いている。平坦な道が坂道みたいに見える。会話している者の優劣を描く意図があったそうだけれど、それ以上に、コマ数同様、見せたい部分と省きたい部分の加減を調整している気がする。しょっぱい場面を作らない手法として面白い。
僕にはこの監督の意図が、アニメーションへの挑戦のように感じられる。たとえば『秒速5センチメートル』のような叙情的な風景は、エッセンスが絞り込まれたうえで作画されていて、現実の風景とは似て非なるものだ。しかし映画としては、余計なものを取り込まず、意図したように表現している点で成功している。しかし実写でも、雑多なものから、表現したいものを抜き出すことはできるはず。撮影所のセットがまさにそうなのだけれど、人物の動きについても、意図的な描写ができる。
大林宣彦氏、御歳69。『なごり雪』のころよりも、いっそう精力的になっている。まだまだなにか仕込んでいそう。