もう少し深みがあれば 『きみにしか聞こえない』

リョウ(成海璃子)はいつもひとりだった。正確に言えば、勝手にひとりのつもりだった。ある日、携帯電話の形をしたおもちゃを拾ってからというもの、頭のなかで電話のベルが鳴り響いた。電話の相手は、シンヤ(小出恵介)と名乗った。やがて彼とは、1時間ずれた世界で会話していることに気づく。シンヤは、リョウに会いたいと言った。一度は断ったリョウだったが、ある人のアドバイスで、会うことを決心する。
あやうく、映画としての体裁をなくすほどの作品になりそうだった。なにも観客をハラハラさせる必要はないけれど、スクリーンを通しての対話がないときびしい。ラストのいくらかを除けば、ほとんど成海璃子のイメージビデオのような展開だった。無難なストーリーを用意したから、無難な気持ちで観てくださいとでも言うつもりかと思ったほどだ。もっと脚本で作品に深みを持たせないといけない。
ただしそのあたりを割り切ってしまえば、今年公開された成海璃子主演作(3部作と呼ぶ声も)のなかで、もっとも彼女の魅力を引き出せていたのではないかと思う。それは単純に、設定が高校生(前2作は小学生から中学生)になって、実年齢よりはるかに大人びた容姿に見合ったからに違いない。『神童』に続いて、ピアノ演奏も披露している。しかしピアノの必然性がないのがさびしい。そもそも脚本に必然性を持った要素が少なすぎるのだ。いやはや、そこを割り切ったつもりが。
もしかしたら原作とはずれるのかもしれないけれど、せっかく中村正人が音楽監修を担当し、ドリカムが主題歌を担当しているのだから、その楽曲を小道具としてもっと活用すれば、作品の魅力もぐっと増していたのではないか。全体的に物足りない。