描写と役者陣の活躍に感激 『鉄コン筋クリート』

クロ(二宮和也)とシロ(蒼井優)は、幼くして、開発を逃れて取り残された古びた街・宝町(たからまち)をひそかに取り仕切っている。そこにある日、ヤクザのネズミ(田中泯)が訪れ、再開発のための土地の買い上げが進行していく。しかしクロとシロはそれに抵抗。ネズミは若い波に押し出されるように舞台から消えていく。開発会社が出した切り札は、とんでもなく強い殺人鬼集団だった。
ストーリーそのものは、とくに目新しいものはなく、凡庸といわれても仕方がない。いちおう日本のどこかを舞台にしているし、突貫工事的な開発には影の部分が付きまとい、かつての日本の風景を切り取っている感じもする。ただ、『こころの湯』『カンフーハッスル』がそうであったように、近年は中国で同様のテーマが取り入れられている。この作品にもなんとなく中国的な匂いを感じるけれど、監督のマイケル・アリアスがどこまで意識的だったのかは分からない。
しかしそれはどうでもよくて、この作品の魅力は、画の面白さだ。原作のタッチに動きを入れるにあたって、違和感が生じないように、テンポの取り方を工夫しているように見える。それは人物の超人的な動きにも言えるけれど、風景のズームのインとアウトが素早いことにも言える。インタビュー記事を見たときに、視点の置き方に気を配ったとのことだけれど、たしかに実写映画的なダイナミックと、アニメーションならではのダイナミックが、交合にやって来る。いつも書いている気がするけれど、技術の進化が凄い。
そして、出演者たちの活躍が、この作品のいちばんの魅力だ。二宮の印象というと『青の炎』なのだけれど、今作でもそれを思い出していた。光から闇へ、闇から光へといった難しい表現をさらりとこなしてしまう。さらに蒼井だ。神懸かっている。このひとは、この先どうなってしまうのだろう。こんな才能にも、スランプってあるんだろうか。どんなふうにいじめたら、仕事に支障をきたすのだろうか。
今年は4本もアニメ映画を観てしまった。どれも面白かった。日本映画というジャンルに恥じるものはない。テレビ局がくだらない実写映画を量産しているあいだに、すくすくと成長していってほしいと思う。