田中麗奈がやってきたヤァヤァヤァ 『暗いところで待ち合わせ』

ヤァヤァヤァってホントに便利な言葉だ。とりあえず使っておけばなんとかなりそうな感じがする。卵とじみたいなものか。
ミチル(田中)は幼いころの事故が元で、徐々に視力を失い、今は全盲の状態。やがて父親に先立たれ、ひとり暮らしを余儀なくされる。そんな折、近所の駅で殺人があった。ミチルの知らないあいだに男(チェン・ボーリン)が家に侵入し、居座る。すぐそばにいるのに、ミチルには見えない、気付かない。
『パプリカ』のあとではどうしても迫力に欠ける。しかし、決して悪くない。すごくいい、というわけでもない。そのふんわりとしたポジションを取る作品だと思う。べつにテレビドラマでもいいんじゃないかなあという印象が強く残ってしまうのが残念だけれど、すんでのところで映画的なところが残っているようにも感じられる。カットがきれいに収まりすぎていたり、照明が整いすぎているのかもしれない。きれいさからのわずかなズレが大切だ。
そんなことより、田中麗奈だ。スクリーンで観たのは何年ぶりのことだろう。と思って公式サイトのプロフィールを観たところ、僕の映画暦においてもそれほどのブランクがない。そう、印象になかったのだ。以前の輝きを見つけられる作品が、なかった。しかし、帰ってきた。僕の大好きな『東京マリーゴールド』のころの彼女が。
終盤、田中とチェンがコタツで向き合うシーン。なんとも小津っぽいのだけれど、ここで観る彼女がすごくいい。いろいろと回り道したあとで振り出しに着いて、もう1周を歩きはじめる感じが出ている。同年代として、こんなに嬉しい収穫は滅多にない。