うなずこうかそっぽむこうか 『紀子の食卓』

正確には昨日鑑賞したわけですが、1日でこうも色の違うおっきな作品を観てしまうと、胃もたれしますね。観ているあいだはとにかく夢中であっという間なんだけどね。
紀子(吹石一恵)には、田園都市での家族の生活も、街も地域社会も、必然には感じられなかった。少なくとも、いつまでもいたい家でもないし、いたい街でもない。家出して頼ったのは、ネットで知り合ったクミコ(つぐみ)だった。紀子はクミコにおなじ匂いを感じていた。紀子はクミコのサークルで仕事をするようになるが、それはレンタル家族というものだった。やがて妹(吉高由里子)も加わり、平行して父親(光石研)の捜索活動もはじまる。とうとう父親は娘たちのレンタルに成功し、説得を試みるが。
さて、問題作だぁっていうのは安直で、しかも本音ではあんまりそんなことを考えていない。もしも5年はやく製作されていたら、興奮しながら感想を書いていたかもしれない。もちろん時系列的にそんなことはありえないのだけれど。ちょうど僕が学生のころ読んでいた本が"この手の"社会問題関係だったもので、懐かしいなあと思う一方で、時代が牛の歩みでしか進んでいない感覚になった。
感想を書きにくい。作品は感想を書くことにオープンだ。ほぉれ書いてみいと言っている。悔しいね。手玉に取られているというか。おそらく、僕自身の身につまされるものがあって、でもできるだけ他人事にしたくて、できなくて、整理できる状況にないからなんだと思う。個人的なことはここでは書かないことにしますけど。血がびゅんびゅん飛び交う映像なんだけれど、不思議と観ていて落ち着くのはなんでだろう。ついでに書くと、鑑賞後のエレベーターのなかで、札幌育ちの自分が新宿にぽつんといるというのが、妙に不思議に感じられてしまった。
この整理のつかなさは尋常でないので、ものすごく興味深い作品だった、というだけにとどめて、そのうち続編を書くことにする。そのうち。