暇つぶしをもって劇場へ 『いちばんきれいな水』

小学生の夏美(菅野莉央)は夏休みも塾通いを欠かさない。真面目といえばそうだけど、どこか熱をもてない、はじけられないものを感じていた。でもそういうものだと思っていた。夏美には姉(加藤ローサ)がいる。難病で11年間も眠っている彼女は、色も白くまつげも長い。嫉妬していないといえば嘘になる。ある日両親が、急用で南米を渡航してしまい、夏美は留守番を頼まれた。ふと振り返ると、姉が起きている。しかし、それは夏美が期待していたような姉ではなかった。
まず申し上げなければならないのは、とてつもなく退屈だということ。わずか70分ほどの中篇にもかかわらず、観客の好奇心がもたない。ファンタジー要素のきわめて強い作品ではあるとはいえ、脚本が稚拙であっていいわけがない。この作品にはスクリプターはいらっしゃいましたか。小田和正『緑の街』のなかで監督がスクリプターを、「いちいちうるせえなあ」といわんばかりにバカにしていたのを思い出します。映画は総合力ですから、どこが欠けてもよくならない。
でも、いいんだ、べつに。株取引に損切りが必要なように、この作品にも、真剣に鑑賞しようとする気持ちを切り捨てることが肝要だ。こんな作品でも採算が合う昨今の日本映画業界に驚愕しながら、しかし映画であることを忘れて鑑賞することにしよう。たとえば加藤ローサのプロモーション・ビデオということで構わない。わーカヒミ・カリィがスクリーンに出ているよ。退屈になったら雑誌でも読むといいよ。
ちょっとけなしすぎたのでフォローしますと、映像はきれいで大いに評価できる。美しさの印象はないけれど、きれいさのレベルは高い。撮影の蔦井孝洋は川上皓一と小林達比古に師事したとのこと。照明の中須岳士も印象的な作品を担当している。美術の須坂文昭も然り。監督自身、ミュージックビデオ出身だそうで、映像に対する感覚は鋭いようだ。
演出についても多少おさえると、終盤、姉の少女時代の映像が流れる。夏美は、中身は子供のままの姉に混乱しながらも、しかし自分をリードする姉の姿があらわれていることに、気付きはじめる。伯母(カヒミ・カリィ)から姉に、姉から自分に、受け継がれていくものがある。短時間でエッセンスだけをさらさらっと説明するうまさはさすが。夏美、子供の姉、伯母の三者の迫真の演技が、作品をぐっと引き締める。それで埋め合わせできるものでもないのだけれど。