松竹映画の本領発揮! 『釣りバカ日誌17』

(ネタバレを回避したい方はそっと目を閉じて、一番下までスクロールしちゃってください)
今日はふたつもすばらしいものを観てしまって、お腹いっぱいですよ。そのぐらい、こちらもよかった。前作は(感想でも書いたように)お世辞にも面白いとはいえなかったのですが、今回はその真逆。シリーズ中でも屈指の作品に仕上がっているのではないかと思っています。
大枠では例年通り、海のある街にヒロインがいて、彼女の縁談があって、ハマちゃんとスーさんがうまいことまとめちゃうのですが、驚くべき大胆な変化がありました。なんと、合体しません。さすがに鯉太郎もあんなに大きくなったし、年が年だしねえ。それから、数年続いたテーマソングが廃止されました。しかしあるシーンでひそかに流れています。
今作は、お約束や過剰な演出を回避した結果、落ち着いた日本映画的な要素がちらほら出てくるようになって、松竹らしさ、山田洋次らしさを感じます。たとえば弓子(石田ゆり子)が見合いを断ったあとのシーン。ちょっと暗く寂しい雰囲気のなか、隣の間からガラス戸で画面を切った構図で撮る。すると義姉(宮崎美子)が東京土産を手に取り、重い空気を取り払おうとする。思わず、やったね朝原監督と唸りましたね。
役者も実力者を大量動員して、作品にふくらみを持たせています。近年すでにそうなのですが、今後ますます、名コンビの運動量が落ち込んでくると予想されるなかで、周囲のキャストの重要性が増してきます。寅さんシリーズのときにそうだったように。今回はレギュラー出演のハチ(中本賢)の「寅さん+タコ」キャラクターがうまい立ち回りでした。
それから、僕は石田ゆり子大泉洋の迫真の二人芝居をとても気に入っております。プロポーズのシーンですね。まさかこんなキャスティングがあり得るとは思わず、行く末をビクビクしながら観ていたのですけど、掛け合いがちょうどよくできていて、すばらしい。決して完璧なわけではない、微妙に違う波長を、戸惑いを演技の一部として残したままぐんぐん進めていく。面白い化学反応だなあ。
コンビのどちらかがくたばるまで続く(個人的にはハマちゃん以外全員がくたばっても続けてほしいが)シリーズが、ちょっと生まれ変わって、今後が楽しみになりました。マラソンの、いちばんしんどいところを超えた感じがあります。