感想を書けないほどいい 『やわらかい生活』

なにも信じるものがなくても、生きていくことができるのでしょうか。「リスク社会」と呼ばれる現代、しかし大きな変革はなにもなく、いつもの生活が永遠に続くように思われます。なのに親が死に、恋人が死に、親友が死に。その親友が死んだ分、自分は生きていくことが目標だと、主人公は言います。それで充分だと思うけれど、でもどうやって生きていくのでしょう。
これほどまでに現代を縮図的に見つめた作品があるとは驚きました。先ほどからいろんなことを書いては消しているのだけれど、祥一(豊川悦司)曰く「惑う!」ということ。どうして惑うのかを端的に書ければ苦労はないけれど、もしも誰かが、その存在を、生きているということを認め、支持してくれるのであれば、その惑いを少しでも和らげることができるに違いありません。
頑張らなくていいとはいうけれど、そういう生き方もあるけれど、でもそれが正しいのかどうか、実は誰にも分からないんじゃないか。記憶では多くの作品は、新しい生活に活路を見い出し、恋愛から一歩遠ざかって暗転します。最近の作品は、妙に男女がくっつかない。それが新しい関係だというのは容易いけれど、それはいい終わり方といえるのでしょうか。この作品もそのようにして終わるものと思っていたけれど、よく裏切られました。
脚本、演出、キャスティング、撮影、どれをとっても本当に言うことがありません。感想を書くのにこんなに困るのも久しぶりです。寺島しのぶの演技力のすばらしさはさることながら、今回は豊川悦司を絶賛したいと思います。あの田舎臭さ、ドン臭さ、優しさが一体となったダメっぷりが、どうしてあの肉体から出てくるのだろうか。蒲田がこんなに似合う映画もありませんね。