これを映画力と呼びたい 『雪に願うこと』

ここに書くのも、映画館も久しぶりなので、かなり勘が鈍っていて困っています。
この作品の舞台、帯広には何度か足を運んだことがあるのですが、長閑ないい街だと思います。ちょっと車で走れば、だだっ広いだけの畑が一面に広がり、冬になれば孤独がいや増します。以前にも書いたと思うけれど、北海道の冬は孤独なのです。冒頭、飛び散る雪で視界が閉ざされた道路を、主人公を乗せたタクシーが一台、走ります。朝もやのような白んだ景色に、ヘッドライトのふたつの灯りが近づく。このシーンで、この作品の魅力がぐっと迫ってきます。
舞台であるばんえい競馬場は、その孤独感を演出する絶好の場所です。レース開催中、関係者は場外に出てはならない。主人公は突然、どやとも家庭ともとれる男だらけ数人のコミュニティに軟禁されます。そこから、彼が人生をやり直そうとするのでの、助走の時間が始まります。
東京で事業に失敗して逃亡した主人公、寡黙で腕っ節と責任感の強い兄、職人気質の厩務員たち、母親の役目を勤める給仕のハルコさん、女性騎手のマキエ。カメラは、兄弟を中心に彼ら一人ひとりを丁寧に、優しく捉えながら、しかしでしゃばらず、近寄らず、遠ざからず。絶妙な距離感が、観客をストーリーのなかに確実に引き込みます。脚本も同様に、多くを語ることなしに、むしろ演出に多くの語りを求めています。
それこそ映画だなあとつくづく感じます。語らないのに、語る以上のことを表す。正直なところ、とても売れる作品だと思えないし、「サクラグランプリ」を取れなかったら、どうなっていたかも分からないような作品ですが、それでも企画に賛同して、参加したキャストやスタッフがいる。ちょい役にも豪華な役者たちがずらりと並びます。僕はこれを、映画力と呼びたい、と思うのです。