真剣勝負中継映像、芝居つき 『ちゃんこ』

べつに音沙汰なかったわけではないのに、須藤温子とは本当に縁がなかったと思います。まともに姿を見たのは3年ぶりのことでしょう。なにせこの作品も、現在の活動の様子を検索して初めて知ったぐらいです。しかし、かわらんねえ。すれもせず、垢抜けもせず。どちらかというと、褒めてますからね。
さて、実存する地方の国立大学相撲部を舞台にした青春劇。廃部寸前、しかも部員は留学生ひとりという相撲部に飛び込んで、周囲の期待を背に立て直していきます。部活の映画というのは数多ありますが、大学生が主人公というのはほかに思い出せません。だからといって新鮮さがあるかといえば、そうでもないですが、とくにそれを求めたいとも思いません。
場所は違えと、僕も地方国立大学の出身なので、雰囲気が似ていて懐かしい思いでした。田園風景も眩しく、この作品は風土にずいぶん助けられています。この風景か、出演者の誰かを目当てで観ないことには、ちょっとしんどい内容でした。
脚本が作品の魅力をずいぶん削ぎ落としている感じがします。主人公・中田(須藤)がどうして入部しようと思ったのか、そのきっかけは全体の半分の時間をとってもいいぐらい重要だったんじゃないか(あるいはものすごく強引な理由にしてしまうとか)。とってつけたような謎のシーンもいろいろとあります。片岡(北村悠)が途中からいなくなってしまうのは、撮影中に本の書き直しを余儀なくされたせいでしょうか。
しかし、スポーツものでもっとも表現が難しいのが、試合のシーンです。経験者が役に当たっている場合はともかくとして、素人が練習して本番に望むのであれば、レベルの低さを悟られない演技と演出と撮影努力が求められます。何度か書いた気がしますが、『反則王』のソン・ガンホが非常に印象的なんですよね。
この作品、大会の範疇を国公立大学に絞った甲斐もあり(私立大学には関取候補がゴロゴロいるので)、そこそこの成績を上げる筋のもと、手に汗握る真剣勝負を観られました。記録映画でも観にきたのかしら、というぐらい、大会の部分だけが丁寧です。しかし、丁寧なのは男子部員の取組であって、主人公本人の取組は、なぜかおまけのような編集が。
せめて誰かひとりぐらい、柱になるようないい演技の脇役がいれば、ストーリーの進行をその人に任せるという手もあったでしょう。渡部篤郎西田尚美が、かなり飼い殺しにされていて、勿体無いです。
もし、どんなによくない作品にもひとつぐらいはいいシーンがあるものだと、そしてそこに言及することによって、作品の魅力を引き出すことが大事だとするならば、タイトルまでの冒頭のシーンでしょうか。食堂のシーンから暗転してタイトルが見えたとき、音楽が(久石譲並みに)大げさなぐらいに荘厳なせいもあって、うまいなあと思いました。面白そうな作品を見つけたと思ったのですがね。