書いてなかった感想ふたつ

映画の感想は、やっぱり観たその日に書かないとダメですね。なかなか思い出せない。この間、どのくらいの酒量があったか覚えてませんが、とにかく、冷静なうちに記録を残さないとなりません。

近代はどっちだ 『バッシング』

東京フィルメックスで観てきました。監督はあくまで完全なフィクションだと繰り返しますが、それを額面どおりに受け取れるわけはありません。主人公の女性(監督曰く25歳)はとある戦地でボランティア中に人質になり、保護されたのちに北海道の実家で暮らしています。そこで彼女のその家族は、不特定多数からバッシングという名の嫌がらせを受けます。
ストーリーは、ひたすら彼女を取り巻く状況を淡々と綴ります。美しい風景も、束の間の安息もないままに、淡々と。舞台は実家の周囲に限られており、かつての仲間や戦地の様子などはいっさい登場しません。生活そのものをそのまま追っていくスタイルです。
ティーチインでも話題になったのですが、主人公は決して善人然としていないし、むしろ、いかにも友達の少なそうなキャラクターです。それゆえに周囲の人びとも、悪人と言い難い部分を多分に含んでいるように見えます(悪いのもいるんだけど)。どちらも、べつに善人でもなければ悪人でもないわけで、あくまでどちらの立場にいるのか、という点を超えません。
バッシングする人のなかには、わざわざ彼女に電話をしてきたり、彼女に対面で説教したりするものがいます。迷惑だの恥ずかしいだの言いますが、冷静に見ればそれもまた甚だ迷惑な行為で、しかしながら彼らはそれを正義だと思っている節が強い。彼らの立場にいれば、彼らは近代の市民かもしれません。しかし戦地でわざわざボランティアをする行為は、近代市民的というほかに捉えようがないでしょう。
久々に考えさせられる作品でした。考えたせいで、カットの構図云々などほとんど記憶にありませんが、少なくともスクリーンと観客の距離の短いつくりになっていたと思うので、この作品に関してはうまくいっているのではないかしら。占部房子の熱演がすばらしい。

い、いいんじゃないでしょうか 『春の雪』

あの、これはもう確信というより決定的なんですけど、行定勲監督って、がんじがらめの映画が似合いますね。いかにも自由度の小さそうな、プレッシャーがかかりそうな作品ほど冴えてる。とくに原作がかっちりしていると抜群ですね。
なにがよかったかといわれるとどう応えていいか分からなくて、いま非常に困っています。これってCGじゃないよねと確認したくなるような、よく撮りましたとしか称えようがない見事な映像しかり、誰ひとり暴走せずに作品のなかにうまく溶け込めた演出しかり、僕としてはなんら文句を言うつもりがないのです。世界観で勝負するしかないという作品で、その世界観があまりによくできているもので、だから余計に、無邪気に褒めちゃって、ここを読んだ人が乾いた笑いしか出さなかったらどうしようなどと、ひとりごちてしまいそうです。
撮影監督を外国から招聘した効果があるのでしょうが、日本映画というよりは、どこアジア色のある風合いになっているように思えます。あの『夏至』(トラン・アン・ユン監督)を撮った人ですからね。日本人顔負けの色使いへの配慮には恐れ入ります。北野武監督『Dolls』を観たとき、せっかく美しいカットなのにざらつく要素があると不満だったのですが(いま思えばそれも表現だったのかも)、今回は本当にうまいこと撮れてますね。
それから、大楠道代の大立ち回りがいいですね。今回は本当にミスキャストがないよなあ。前半、竹内結子が不安かしらと思ったのですが、後半になるにつれどんどん艶が出てきて、しまいには、まだ朝ドラをやるかどうかという若かりしころを彷彿とさせる部分もあり、勝手に感慨に耽っておりました。
強いて言えば、ちょっと長いかもしれません。いや、時間を考えずにビールを飲み始めた僕が悪いのでしょうけど。