そう、この美しさとおいしさ 『カナリア』

家でレンタルDVDを鑑賞するなんていつ以来か。それ以上に、ほとんど家を出ていない。少なくともここ1ヶ月はそんなことがありませんでした。どうりで疲れてるわけだ。
さて、春にスケジュール調整がどうしてもうまくいかずに観られなかったこの作品を、半年以上遅れてようやく鑑賞いたしました。前日に観た作品のこともあるせいで、かなり満足しております。
やっぱりカットの構図、光の使い方、色彩の「美しさ」は大事ですね。2時間で1分でいいんですよ、抜群に美しい映像を見せつけられたら、僕はノックアウトですよ。この作品もスクリーンで観たらもっと惹きつけられたかもしれません。『害虫』もそうでしたが、構図もさることながら、静と動のテンポがすごくいいですね。
大きな意味で言えば、人は境遇から生まれた運命を変えることはできないし、選択することもできない。しかしながら、枠を消すことはできなくても、枠のなかに選択肢がある。そこからベターを見い出して、ベターな人生を歩むことはできる。それを決めるのは自分自身。作品後半で元信者・伊沢(西島秀俊)が説く「自分が自分自身であること」という言葉が重いです。
それを妥協と呼ぶのですけど、これとアイデンティティで社会は作られているということなのでしょう。主人公・公一(石田法嗣)は妥協を知らずアイデンティティだけを掲げていたけど、やがてそれを失ってしまい、暴力を振るう父親というアイデンティティを捨てた由希(谷村美月)は、光一の同伴者という弱々しいポジションを得る。ふたりと光一の妹を社会の最小単位としての擬似家族とするならば、彼らは家族を社会化させなければならない。答えは見えない。
石田法嗣谷村美月は非常にいい演技をしていました。谷村の妙に色っぽいのがすごいです。それから、キャンプ地で差し出されるスープにがっつく光一、食堂のオムライスを頬張る由希が印象的です。この「おいしさ」が、観る者に束の間の安息を与えます。ラストになんとなく釈然としないものもありましたが、いい作品でした。