ケのちハレのち...? 『ウィスキー』

映画瓦版の服部さん曰く、週に1本映画を観れば、年間に50本以上を観ることになるので、そうなると好きなジャンルばかりというわけにもいかず、さまざまなジャンルを見る機会になる。それはまったくその通りなのですが、ほかにも他ジャンルを攻めざるを得なくなる方法がありまして、期限付き回数券なのてすね。ぴあで買える渋谷の映画館で使える回数券を、先月、なんとなく買ってはみたものの、いつまでたっても観たい作品に巡りあわずにいたのですが、強制力によって、こうして南米ウルグアイの作品に触手を伸ばすに至るわけです。
東京国際映画祭でグランプリになった作品です。零細工場の老いた経営者が、母親の墓を作ることになり、ブラジルに住む弟を呼ぶのですが、ここで彼は、工場の職員と偽装の夫婦を演ずるのです。そして弟を交えた3人の、短い生活が始まります。
主人公がなぜ工場の女性に妻役を頼むのか、観客にそれは明かされません。あまり深刻な事情ではないのかもしれませんが、その女性はそれを知っていて、我々は知らない。いっそ知らないほうがいいということなのでしょう。観客が本筋を読み損ねることを恐れた監督の意図ですね。
とにかく、淡々とした、静かな描写。それはたとえば、僕がうっかり居眠りをしそうになるほど。しかし淡々としているからこそ、行動や心理の微妙な変化が鮮明に映し出され、また老人の時間というものを十分に表現しています。そう、老人の持つ独特の時間観やテンポで、フィルムは我々に対話を試みるのです。そして作品のなかで、実は激しく心理が揺れ動くのは、主人公ではなくて、妻役の女性。ラスト、スタッフロールが流れるころになって、ようやくその激しさに気づいた僕は、やっぱり鈍感な男性なのかしら。
正直なところ、眠くなるのはどうなんだろうと思うし、これを機に南米映画に開眼することもないのだけれど、日本映画に相通ずるところを感じました。日本でこそ評価されるべき外国映画というのは、実はとてもたくさんありそうです。