今年も勝手に映画大賞2007

昨年大晦日の産経で佐伯啓思氏が述べるところによると、現代を表す言葉はニヒリズムなのだそうだ。「これまで自明なものとして信じられてきた諸価値の崩壊」の結果、「ある者は瞬時の刺激や快楽を求める刹那的快楽主義に走り、ある物は、所詮何をしても無意味だとしてこの世界をシニカルに見る冷笑主義へと走る」とある。
偉い先生が言うのだからそうなのかもしれないけれど、自分が想像する世界がかなり狭くなっているようだ。大きなことはわからないけれど、小さなこの世界のことならわかる、という具合に。しかし、他者との連関が消滅したわけではなくて、ただ閉じているだけ。いつかは開く。そのとき「どっこい生きる」様子を表現することは、映画を面白くすると思う。
昨年観た日本映画80本から、勝手な採点で高評価できた10本を挙げてみた。それらの多くは、時代のなかで生きながらも、時代を超える力のあるものである。映画は一瞬で消費されてしまうようなものではないと思うので、すごく当たり前のことを書いているような気がする。しかし現実が伴わない以上、消費しつくされないようにと願わずにはいられない。

2007年の作品十選

  1. 天然コケッコー
  2. めがね
  3. 幸福な食卓
  4. 檸檬のころ
  5. 愛の予感
  6. 一万年、後・・・・。
  7. しゃべれども しゃべれども
  8. サッド ヴァケイション
  9. ALWAYS 続・三丁目の夕日
  10. キサラギ

まず総論ということで、興味深いことをひとつ挙げると、1,2,3,5は携帯電話と関係している。1に登場する少年少女は携帯電話を持っていない。3の主人公はもっと明確に、携帯電話がなくてもコミュニケーションを取れると主張する。2は圏外の離島での話。5はプリペイド式携帯電話をプレゼントして関係を作ろうとするが、すぐに捨てられてしまう。上に挙げなかった作品を見ても、携帯電話が負の世界とのつながりとして描かれているものばかりである。自然なものとして扱われたのは『包帯クラブ』ぐらいではないか。『あしたの私のつくり方』は携帯電話を正の世界に引きずり込んだあまり、見苦しくなってしまった。
それから、昨年も登場人物がさまざまな理由で死んだ。交通事故、戦争、復讐、自殺、がん、白血病。そんなに簡単に殺さないでいただきたい。故丹波哲郎氏は、やたら人が死ぬ作品を好まないと述べていた。なにも死ななくたって表現できるものはあったろうに。
もうひとつ、昨年はどうしてあんなに昭和懐古なんだろう。回想シーンが多すぎやしないか。食傷しているので、反発したベストテンになっている。
さてと。各論。1と2が、昨年は群を抜いている。どちらを上に持っていこうか悩んだけれど、山下敦弘監督の現時点での最高作と思しき『天然コケッコー』は、憧れの東京に馴染めないことを学習して地元を志向した主人公に、昭和と違う新鮮さがあり、好感度が非常に高かった。2を宗教的だと批判する向きもあるようだが、僕はそこをあえて評価している。以前も書いたが、あの離島は浄土だ。浄土の思想は、時代を超越する一方で、いまを語ることもできる。オリジナル作品であることも高く評価したい。
3は、北乃きいの「新人力」が遺憾なく発揮された名作だ。編集のスマートさもすばらしい。ラストの長回しは何度観ても感動する。ワンシーンだけ、脚本がでしゃばった感じがしたのがこの位置取りになった理由。4はまったく期待しないで見たところ、あまりの出来のよさに仰け反ってしまった。上記10作のなかで演出だけを挙げれば1番ではないか。つくづく思うが、榮倉奈々って、共演者の評価を上げられる主演者だ。そろそろ本人も。
5と6は異色の作品だ。この2本の評価をどうするかで頭を抱えた。いちおう、僕も作品に点数をつけているけれど(参考値なので公表しないけれど)、採点基準をはみ出してすごい。5の緻密な機微の表現には驚いた。好きな作風だ。あれで、照明など映像美がついてきたら、1番でもよかったぐらい。6にもまいった。いまだ理解不能ながら、沖島勲監督の肉体からほとばしる勢いがスクリーンから強烈に照射されていた。
落語を題材にした7は、コミュニケーションをテーマにした時代性に富んだ作品。平山秀幸監督といえば『てれすこ』も落語だが、テーマや江戸の風情、「火焔太鼓」の熱演、テーマと対照的な八千草薫の軽やかさがいい。8は3部作などといわれてるようだけれど、続編ではないし、単独でも十分に面白い。追い詰められたところで出てくるコミカルさにやられる。石田えりはベストオブ「どっこい生きる」だ。さてさて、シリーズものをベストテンに挙げるのはなかなか難しい。新鮮さの問題があって、よほど感激しないと印象に残せない。その点、9はすごかった。一人で見ても誰と見ても、すべての国民を魅了する鉄板というのは、この先しばらく出てきそうにない。10の脚本はすばらしいし、佐藤祐市監督にはまたもや圧倒されたが、賞味期限が短そうなところがやや難点か。
ということで10作なのだが、往生際が悪いというか、それらのちょっと下にいる作品のことが気になる。きっとそのうち番外編としてご紹介することになりそう。新年は新作映画も少なくて、暇なので。

2007年の主演十選

  1. 神木隆之介 『Little DJ 小さな恋の物語』『遠くの空に消えた』『ピアノの森
  2. 谷村美月 『檸檬のころ』
  3. 平山あや 『Mayu -ココロの星-』
  4. 北乃きい 『幸福な食卓
  5. 蓮佛美沙子 『転校生 -さよなら あなた-』
  6. 小栗旬 『キサラギ
  7. 豊川悦司 『サウスバウンド』『犯人に告ぐ
  8. 国分太一 『しゃべれども しゃべれども』
  9. 竹内結子 『サイドカーに犬
  10. 堀北真希 『恋する日曜日 私。恋した』『アルゼンチンババア

2007年の助演十五選 (順不同)

役者がよいならよい作品になる、とは限らないが、よい作品の役者はよく見える。上記で挙げなかった作品で言うと、『犯人に告ぐ』『遠くの空に消えた』『Mayu -ココロの星-』あたりは、まさに作品が演者の評価を上げている。『犯人に告ぐ』の3人の格好よさったらない。とくにツダチョーこと笹野高史は最高。
主演者で圧倒的なインパクトを残したのは、神木隆之介だろう。演技を肴に酒を飲めるぐらいすばらしい。『Little DJ』で光石研の追悼放送をするシーンの表情なんて、溜息が出そうになる。ここまでやったのだから、どこかでグレても文句は言えまい。
ほか、谷村美月は主演とさせていただいた。体育館に向かって走りながら絶叫するシーンは感動的だった。『キサラギ』の主要5名は誰もがすばらしいが、なかでもあっと驚く演技力だった小栗旬を挙げてみた。『サイドカーに犬』も忘れられない作品だ。現代のシーンとのつながりにやや難を感じたため作品としての選から漏れたが、子役の松本花奈やシリアスな古田新太も含めて、非常に好印象だった。(子役といえば『エクステ』の佐藤未来も侮れない。『母べえ』に出演しているそうなので、ぜひ注目されたい。)
僕が見た80作(id:tarchin:12340007)をざっと振り返ると、昨年最も数多くの作品に出演したのは、田中哲司ではなかろうか。リストのなかだけで8本もある。『水の花』以来、印象深い役者なのだが、どうしても16番目の助演者になってしまった。
上に挙げた人びとのなかでは、山田辰夫松重豊三浦友和の3氏が群を抜いている。『眉山』の山田辰夫は最高にいい。それでいて『転校生』の白塗りときたもんだから堪らん。松重豊は昨年のベストアクターだと思う。『しゃべれども しゃべれども』の野球解説者と『Little DJ』の流浪の患者がとくにいい。そして『転々』の3バカトリオ。それがなくてもすごいのに、ギャップに殺される。三浦友和は映画界のアイドルとしか思えない。問答無用である。
さまざまなブログや、もちろん雑誌等々で昨年を振り返る企画が出ていることかと思うが、たぶん高橋真唯を推す人は多くないだろう。でも侮れない。過去、『妖怪大戦争』『シムソンズ』『ストロベリーショートケイクス』とインパクトを残し続けてきたのは決して偶然でない。昨年は、気に触れちゃった人や脳に異常をきたしちゃった人という「イロモノ」だったが、短時間で客の心をきっちりつかんでいる。いま大好きな役者のひとりである。
再び総論。ここ数年、年末年始になると、1年に観た映画を振り返っているわけだけれど、その最後に、これまた毎年、次の年こそ日本映画がつまらなくなると危惧してきた。昨年はついに斜陽だと言われるようになったけれど、これで今年以降公開される作品が減ってくれれば、僕の負担が軽くなって申し分ない。引き続き、やたらとテレビ局がでしゃばりそうで気に食わない。
とりあえずここまで。これだけで数日かかった。来週あたり番外編をつくるかも。自己満足のために。