年末の3本勝負 感想は控えめで

先日、わがベストテン候補をいくつか挙げました。その際には書きませんでしたが、敬愛する市川準監督の作品を入れられなかったのはたいへん悔しいです。今年はごり押しもできませんでした。きっとまたいいスポンサーを得て、グッとくる作品を撮ってくれるでしょう。それを待つのみです。
というのは蛇足で、この年の瀬にまだ映画を観ているのですが、しっかりと感想を書く時間がないので、観た直後のメモ帳をもとに、簡単に残しておきます。なので、タイトルもなければ粗筋も書きませんが、ご容赦を。

グミ・チョコレート・パイン

80年代新人類の性なのか、ケラ監督の映画が時代を超えていかない。パッとしない。80年代のリアリティはあるのだろうけれど、いま撮る意味を感じない。観た次の日には内容を忘れてしまう恐れのある作品。
しかし、黒川芽以は悪くない。監督が彼女をキャスティングした理由ってなんだろ。垢抜けないところ、というのはファンにはちょっと笑えないだろうが、ジョークではないと思う。
終盤、黒川と石田卓也が最後に会話する踏切のシーン。いつまでも告白してくれない石田を突っつく黒川。石田も好きだと言いたくて仕方がないが、言えずに別の返答をしてしまう。あの演出の切なさは身につまされた。じっと見ていると、黒川は中学のころに好きだった人にちょっと似ている。僕がスクリーンの中にいたら、きっと山口美甘子(=黒川)を好きだったに違いない。
ほか、大森南朋柄本佑もいい。でも、ここ最近、昭和を回想シーンで見せる作品に食傷している。

北辰斜にさすところ

年配監督による年配向けの作品。芸術でない、年配者らしい視点にあふれた脚本が印象的である。それゆえ老人たちには好ましいかもしれないけれど、同窓会めいた宴会のシーンには見苦しさもある。古い学校の卒業生なら、同窓会報に掲載される老人たちの宴会写真の鬱陶しさを思い出すのではないか。その意味で賛否両論はあるだろう。
それでも、いまや一介の地方大に過ぎぬ鹿児島大学(旧制七高)に主人公の孫が進学するくだりは、上京的昭和の反動を感じ、好ましい。僕の学生時代を思い出す。僕も国立の地方大に飛び込んだタチなので。学生時代に鹿児島大学に行ったことがある。独特のキャンパス風景が懐かしい。
現在と過去がシンクロするシーンが散見されるが、浅田次郎のような「だまし」が完結していない分だけ、違和感は拭えない。

かぞくのひけつ

この日に観た作品でいちばん面白かった。のようなことを、きっと誰もが思っているはず。大阪の人びとの質感が伝わる作品。ああ大阪人も悩むのだなあと、アホみたいなことを考えた。冗談ばかりベラベラしゃべるのには、商人の気質もあるだろうけど、照れ隠しもあるのかもしれない。器用というか不器用というか。
演出がいい。だから面白い。不動産屋に来たちすんを発見した桂雀々のリアクション! 笑えるポイントも多数ある。怪しい薬屋役のテントもいいスパイス。彼の歌が妙に心に染みる。市川準監督が『大阪物語』で照れてしまった部分が、この作品には滲んでいる。
主演の久野雅弘はいい。雀々の遺伝子を受け継いだ青年を好演している。そして、谷村美月。彼女の一挙手一投足にどぎまぎしてしまう。実に体に悪いと思う。でも最後の笑顔には、本当にほっとさせられる。やっぱり美月ちゃんはいい。