今年を代表するコメディの誕生 『GROW 愚郎』

敦(桐谷健太)は、学校で虐められ、家で酒乱の父親に襲われ、かといって仕返すでもない、居場所のない日々を送っていた。ある日、限界を感じた敦は廃屋に忍び込み、ロープで首をつろうとした。しかし、その瞬間、3人の男の怒号が聞こえた。現れたのは、学ランにリーゼントの、おっさん(寺島進、木下ほうか、菅田俊)だった。彼らの説得で、敦は自殺を思いとどまる。
映画館であんなに笑ったのはいつ以来だろうか。とにかくケラケラと笑わせてもらった。ひたすら突き抜けている。次から次へと繰り出されるギャグが、テンポも見せ方も最高に面白い。低予算で地道な演出になったことと、監督のセンスある笑いの演出が、完璧にスクラムを組んだ感じ。こんなに地に足の着いたコメディ、本当に久しぶりな気がする。
ん。なにか表現がおかしい。そもそもだ。学ラン、リーゼント、こわもての"おっさん"ってなんだ。そもそもそこがナンセンスなのに、地に足がついたコメディのというのは、まさにナンセンスだったか。
いやいや、そこがミソなのだ。作品の世界はあくまで真剣勝負。だれひとりとして傍観してなんかしない。敦は生きようと必死だし、3人衆は生きる楽しさを教えようと必死になっている。非常識な行為はしない。だからこそ、3人衆(通称シックスセンス)の存在が観客に自然に溶け込むようになる。そして諏訪太郎がヅラをかぶっても、それだけで笑いなることはないのだ。
キャスティングと脚本と演出の妙だ。この作品のすべてがいとおしい。桐谷健太というと『バッチギ!』のヤンキーしか印象になかったけれど、あの顔で弱っちい役をして、だんだん様になってくるのが不思議だ。渡辺裕之のストレートさ、遠藤憲一の怪演(役名が変態マー君!)。そしてなによりおっさん3人衆が格好いい。中村映里子って初めて見たけど、映画に吸い込まれるうちに、この子にも吸い込まれてしまった。あるいは倉科カナ。変態マー君とのディープキスに、正直落ち込みました。キスだけでよかったけど。
ところで舞台挨拶つきの上映で、僕の座席の3メートルぐらい先に、諏訪太郎と並ぶインディーズ映画の名優・津田寛治氏の姿が。もっすごく笑顔でした。