北国ライフ

(珍しく長くなりました。大したことは書いてません。)
小学生の時分3年間を除けば、僕はずっと北国に生まれ育ってまいりました。ただ実家がつねにマンションだったこともあって(ひとり暮らしし始めたころも集合住宅だったので)、冬の室内が酷寒で凍え死にそうだという経験をしたのは、ここ1-2年ぐらいのものなのです。もっとも部屋に恵まれて、昨シーズンの寒波の際、ただひとつの事故も起こさずに済みました。しかしやはり北国ライフというもの。若輩者ながら思うに、人生に一度ぐらいは酷寒にて事故を起こすものなのではないか。
そのようなことを急に考え出したのは、論文発表会の寸前でドタマがパンクし、挙句に飲み会に繰り出して、現実に覚醒して落ち込んだからではありません。飲み会をしたのは事実ですが。で、それが終わって帰宅すると、玄関に油性マジックで殴り書きされたルーズリーフが1枚、落ちておりました。暗くてよく見えないながらも、明らかに広告ではなくて、民間人が何かを訴えようとしているのは分かりました。
しかし最近は慎ましく生活しているし、騒音公害なら上の階の住人の生活行動は異常なので僕には関係ないし、ゴミ出しを間違えたこともない。家賃も払った。これまで一度も、大家とも不動産屋とも喧嘩したことがなく、それこそ上の階の住人がうるさくて仕方ないことを除けば、なに不自由なく生活してきたというのに、そんな僕にどんな要求があるだろう。と、明かりを点けてみると、こんなことが書いてありました。

(表面)風呂の水道が破裂してましたので元栓閉じておきました。
(裏面)挫けずに頑張ってください。

署名なし。これは悪戯か泥棒に違いないと思い、とりあえず部屋を観察してみても、ノートパソコンが盗まれていない時点で、不法侵入者はいないらしい。とはいえノートパソコンもずいぶんな性能なので、私の個人の情報が若干漏れる以外は、もはや分解してパーツを売ったとしてもメモリぐらいしか使い物にならないだろうし、要するに金目のものなんてひとつもないのです。
これは悪戯に違いないと水道の元栓を開けてみると、見事、風呂釜が破損しておりました。目に見えぬところから水がよどみなく流れました。このクソ忙しいときになんという面倒くさいことになったものか。それにしても、外気マイナス10度にも耐えてきた我が家の水道が、マイナス5度程度で事故を起こすとはどういうものだろうか。もっともいまのアパート、リフォーム直後に入居したものの、風呂釜とシンクは新調されていなかったので、耐用年数が終了したのかもしれないけれど。
結局のところ、これは実は親切な手紙であったのですが、署名がないうえに、なんとも言いようのない余計な一言が付いている。これさえなければただのいい人ですんだのに、きわめて印象の悪い善人となってしまっている。ルーズリーフといい、油性マジックといい、汚い文字といい、学生に違いないのだけれど、隣の住人は学生だったのだろうか。同棲してるよなたしか。でも学生だとしたら、ほぼ間違いなく年下だよな。年下にバカにされたのか。
だいたい、僕が出かける前には事故がなかったわけで、夕方から夜にかけて発生した事故なので、真冬日とはいえ不慮の事故と思っていいはず。それをバカにされる謂れはなかろう。いやそれ以前に、我が部屋の風呂場の水が流れ続けていることに、そんなに簡単に気付くものなのか。それを外から予見できるのは、風呂釜を壊した人間しかあり得ないのではないのか。この文章を書いた印象の悪い善人は、風呂釜の破損程度のことで挫けたのか。そして、頑張ったのだろうか。頑張るのは修理屋なのに。
明日、不動産屋が営業しているといいな。受験シーズンは無休なので、そろそろだと思うけど。いくらかかるんだろ。というわけで、しばらく僕は風呂に入れません。これを見たオフの友人たちは、僕を銭湯に連れて行ってください。場合によっては、牛乳をおごってもいいです。場合によっては。