そして今日も腹が減るのだ

昨日から、不意に見つけたこんな本を読んでおります。

小津安二郎 東京グルメ案内 (朝日文庫)

小津安二郎 東京グルメ案内 (朝日文庫)

僕は、見ていてお腹が空いてくるような映画が大好きでして、一時期、中国映画をよく見ていたのはそのせいでした。「初恋のきた道」では、主人公の目の弱い母親が若い教師の力強い噛む音を聞いて、自分の夫を思い出す描写があります。「活きる」では文革配給制になった食事場のシーンがあり、状況としては重たいのだけれど、大衆が山盛りの食い物を取り分けて食らう姿が、非常に印象的です。「活きる」は食事のシーンが魅力的な作品です。中国では一品を大量に食うという食習慣があるようで、餃子なら餃子ばかり食べる。餃子は中国では主食のひとつで、中国人が日本にやってきて、「ラーメンとチャーハンと餃子」をひとつの盆に入れて食べる日本人に驚愕するのだそうです。
脱線しましたが、小津安二郎の映画にも、確かに食事のシーンがいろいろ出てきます。家でとる食事よりも、どこかで一杯やっているシーンのほうが印象的なのは、小津自身がグルメで気取り屋だったせいなのかもしれません。
著者の貴田さんという方をまったく存じ上げなかったのですが、小津研究をずいぶんされているようです。読みづらいわけではないのですが、文章が決してお上手ではない。ただ、どうやら解読に難儀する膨大な資料で文庫サイズの書籍を仕上げることに苦慮されたと見えて、時折出てくる自身のエピソードには活き活きした描写もあります。そしてなにより、巻末に掲載されている小津の「グルメ手帖」の内容は、この書籍のお手柄でしょう。読んだらどこかの店にふらっと行ってみたくなる、というのが目論見なのですから。たぶん。
本文の半分以上を読みましたが、小津はコレステロール値が高そうな食事が好きですね。決して長生きしませんでしたが、あれだけこってりとしたものを好むのに身なりが大きくならなかったというのは、彼にとって幸運なことだったでしょう。
こんな本を読んだのが悪いのか、昼飯が控え目であったためか、夕刻となり、そして僕は今日も腹が減るのです。なあんにもしていないわけなのですが。