とりあえず完成したよかった「ハウルの動く城」

文化庁のナンチャラ大賞を取り逃した本作ですけど、その理由がクライマックスにあるのだそうです。たしかにのけぞりますよね。根拠の分からないまま最善の方向にグイグイ引っ張っていく。よく考えてみれば、戦争であれだけ街が焼かれたのだから死者も大量にいるはずなのに、死というものが一切描かれない。仲間は誰も死なない。とってもラヴでピースに見えるけど、これを一番期待してたはずのお子様は、クライマックスを前にしてすでに飽きてる。
原作がどうのこうのというのはあるでしょうけど、べつにクライマックスがハッピーである必要はなかったはず。舞台は近代初期のヨーロッパ的ですけど、世界観としてはきわめて今日的。とくに主体性はないけど虐げられてるわけでもない主人公と、魔法使いという行動への想定不可能な存在と都市伝説。仮面をつけて生きていたい個人像と高齢化社会。すごく後期近代的で、「事態へのわけ分かんなさ」はよく描けていた、というのは嫌味ですか。でもこれは意図的でしょ。(もっとも高齢化の描き方は弱すぎる。宮崎駿自身が年寄りなのに、身の回りの体験を戯画化できてない。この部分は、描き方次第ではすごくいいテーマにできたはずなのに。)
そこまではいい。というか、もうこの時点で凡才な我輩にはついていけない哲学観があって、打ちのめされちゃいました。(「もののけ姫」は難解で不評だったそうですけど、あれはずいぶん平易ですよ。)ただ、それでもいいんだろうなあと思って観ておりました。この絶望感が大事だと思ったので。こういう見方をすると、ハウルがダメ人間に見えなくなる。もっとダメになって、すべての不幸が他人のせいで、薄っぺらな平和論でチャラチャラしててほしかった。
でも、絶望感は覆されちゃった! いままで絶望だと思っていたものが、ハッピーエンドですべてストーリー化されてしまって、いつの間にか世界の中心で愛を叫んでる。絶望を否定された絶望感ってすごいのね。虚脱感というか。もう笑うっきゃない。
というのが正攻法の感想だと思うのですけど、おそらく監督の意図したとおりにはなってない。どっかで紡いでた糸がこんがらがっちゃって、ええいと言って糸を引っ張ったら、大きなダマができたけど、まあ一本の糸に見えないでもないところまで行ったなと。監督がこの作品を本当はどんなふうにしたかったのか知りませんけど、という時点ですでに誤った条件設定をしてる気がしますけど、よくぞ作品として仕上げましたねと言いたい。なんとかテレビに耐え得るようにしてるもの。イノベーションのジレンマだけど。
(追記)いままでまったく気づいていなかったのですけど、役者のことを書いてませんでしたね。神木隆之介タンもいたのに! それはそうと、木村拓哉は非常によかったですよ。いままで民衆はどうして彼の演技を嫌っていたのでしょうね。いや、鼻についたからなんですけどね。「2046」のときも感じましたけど、要するに使いようなんですね。非常に器用に生きる方ですから、演技できないなんていうことはもとよりあり得ない。でもそれを見くびったがあまり「自然体の演出」というバカな行為に及ぶと失敗する。できるだけ設定がガチガチに固まっていたほうが、彼のためになるようです。たぶん、それだけのことなんでしょう。
(追記2)鑑賞代、480円なり。ピカデリーのもぎりのババアは相変わらず喧嘩売ってる。