「ホテルビーナス」の感想

ずいぶん面白い作りにしたもんですね。ほぼ全編モノクロームの画像ですが、明らかにカラーの画像を後で加工しています。だから、モノクロにも茶系と青系の2種類あるし、ときおり、本当にうっすらと色のついた映像が出てきます。処理がめんどくさそうだよなあ。ちなみにこの作品を作るに当たってよほど強く意識したであろう、青山真治監督「EUREKA」は、カラーフィルムで撮った映像をモノクロフィルムに焼きなおすという難儀なことをやったようです。などということを考えながら観ましたが、たぶん今回はデジタル録画でしょう。だったら楽だわな。もっとも、全編カラーのほうがもっと楽だけど。
ストーリーとか設定とか、実にアホらしい。きっとファンタジーというジャンルでいいと思うんですけど、それにしても、深みがない。一応、訳ありばかりが居候するホテルでのストーリーなんですが、そんな理由で尋ねてきたら、すぐに満室になっちゃうだろうというような人間が多数住み着いております。安い制作費のアニメみたいな世界観です。
しかし、そうは言っても僕はこの作品をある程度ならよく評価してもいいと思っています。それは、娯楽(芸能)や芸術としての評価ではなくて、美術として。いわゆる「画になるカット」が多数あって、まるで長い長いCMを見ているようです。そのきれいさに、いい役者と、いい音楽。テレビドラマ的なゆとりのないカットもかなりあった(えらく短い時間で切りまくる)のですが、「テレビ的なるもの」をできるだけ取り除こうというスタッフの努力を感じましたし、カメラを固定した長回しは面白かった。
ここまで書いた限りでは、そんな作品はいくらでもあるから、美術としての評価のみというのはどうかと思うかもしれませんね。思え。なぜ美術なのかといえば、それはあまりにきれい過ぎるから。きれいにまとまりすぎ。人間ドラマがそんなにきれいに収まるわけがない。でも収めちゃった。ストーリーを突っ込もうと思えばいくらでもできる。だれど、やっぱりきれいな映像作品になってる。じゃあ、美術作品ということにしてしまえ。それならいい評価をできる。そういうわけ。
ただ、それにしてもちょっと苦言を呈しておきたいのは、カラーのシーンの扱い。「EUREKA」と同様に、最後のほうだけがフルカラーの映像になっているわけですが、その意味があまり明確でないです。主人公チョナンにとっての「再生の物語」が始まったという意味では、それこそ「EUREKA」状態なので合点がいくのですが、この作品には登場人物がたくさんいます。少女にとっての再生が何であったのか分かりませんし、カラーになってから死ぬ人もいれば、カラーになって初めて登場する人物もいる。それに、カラー部分の尺が長すぎ。もう少しスマートにしないと。むしろ、全編モノクロームのほうがよかったかもしれない。あ、チョナンのファンが怒るか。でへへ。
いずれ、なかなか興味深い作品でしたよ。長くて疲れたけどね。
(追記)モノクロに2種類あるというのは違ってた模様です。公式サイトによると、青だけは無彩色に変換しなかったとのこと。ややこしいことすんなあ。