フィガロは結婚できるか

てくてくと、マリインスキー劇場までの道。寒いし、けっこう遠い。この国の人びとは朝が異様に遅い。そのくせして、店は9時ごろから空いている。
人のいない道を、相変わらず韓国の女学生たちと歩く。ダラはぐいぐい歩くが、地図が読めないのは万国共通で女性のほうのようで、道に迷う。だからそっちの道だよ、と言ってもあまり言うことを聞いてくれない。劇場を見つけると、横断歩道でないところを爆走しようとする。B型か。

(劇場まで道で。左、イサク聖堂。中央、市役所前の広場で軍人が終結。サンタ付き。右、住宅地で発見したパイプライン。たぶん。女学生はまったく興味を示さず。)
このあと、お互いкасса(カッサ、勘定場のこと)でチケットを入手して、解散。
劇場は、まっ平らのフロアに木製の椅子が置いてあった。想像していたコンサートホールとはずいぶん違う。固定された「シート」ではなくて、移動可能な「チェア」。オンラインで購入した座席の位置がかなり怪しい。近くの客に聞いて、なんとか見つけることが出来た。みんな、どうやって自分の席だと認識したんだろう。
ややして、近くの人が声をかけてきた。離れた席を買ってしまった夫婦が、席を交換しようと言う。たぶん。で、見ると、いまよりもっといい位置にあるじゃないか。快く応じることにした。椅子だけはやや質が劣ってしまったが。なぜか、椅子がすべて同じでない。たまに、仮設といわんばかりの簡素な椅子がある。でもそれも、公式な座席なのだ。

(お待たせしました、これがマリインスキーです。この街の建物はどれもきれいだが、この色といい形といい、素晴らしい。)
ところで本日の演目はモーツァルトフィガロの結婚』。ここにたどりつくまでの行程に必死で、粗筋を調べるのを忘れたことに気がついてのは、前日のことだった。携帯電話で日本のインターネットにアクセスすれば分かることなのかもしれないが、パケット代がすさまじいので、やめた。『セビリアの理髪師』のフィガロの話だという以外、なにも知らない。もっとも日本でこれを見たところで、歌詞が日本語になるわけではないので、このまま観てもなんとかなるだろう。
だいたいはなんとかなった。ただ、歌がイタリア語で、その訳詞が舞台の少し上の電光掲示板で表示されるのだが、当然ながらロシア語である。結局のところ、ロシア人の理解の域にも到達できず、ジェスチャーを見て想像を膨らますしかなかった。

(劇場内部、思わずみんな写真を撮る美しさ。こんなふうに椅子が並んでます。横と後ろはバルコニーになっているけど、場所によって価格はピンキリ。最後部は皇帝の座席。)
よく分からないおじさんが出てくる。おじさんとスザンナの仲がいいようだが、あれ、ふたりは結ばれてしまうの。フィガロどうするの。なんかおばさん口説いてるぞ。え、そういうことでいいのか。わわわわわ、なんだか分からないけど大団円の雰囲気だぞ。
というふうに観ていた。ちなみにほんとうは、伯爵があろうことかスザンナを口説くんだけど、それは伯爵夫人がスザンナに変装している。一方、フィガロはスザンナに扮した伯爵夫人を口説いてて、それを見つけた伯爵が浮気現場発見ということで騒ぐんだけど、全部伯爵を懲らしめるための罠だったというわけ。んなこと分かるか。

(皇帝の席近影。やっぱり写真を撮ってる。右、劇場の天井。シャンデリアを入れて撮りたかったが、すべて失敗。そしてこんな高所にも座席はある。)
さて、何時間の公演かも分からずに観ていたが、2幕目と3幕目の間に20分間の休憩があった。劇場にはカフェがつきもの。ここは優雅にいきたいところ。だったが、どのフロアも大混雑。いくつかあった土産物屋もいまいち。家族向けに、栞とペンだけ買っておいた。あとでも書くが、この国のみやげ物は、本当に魅力がない。でも、それらを探して劇場を歩き回ると、なかなか複雑な構造になっていて、迷路の途中に店があるような感じで楽しかった。スリがいないかと、公演中もびくびくしていたが、まったく不安なことはなかった。