走る2本 『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 『ゴールデンスランバー』

シネカノンが倒産しちゃったそうですね。旧有楽町そごうの劇場もなくなるんだとか。何年か前まではポイントカードも持っていたんだけど、最後に観たのはなんだったけなあ。角度のあるいい劇場でした。どこかが引き取ってくれることを願います。
さて、偶然にも疾走する男の物語を連日観ておりました。『ボーイズ・オン・ザ・ラン』では峯田和伸がまたしてもイカ臭い役どころに挑んでいる。いま調べたら、この人が出演している作品をほとんど観ていました。惹きつけられたくないものに惹きつけられているというか、どんなに走っても追いかけてくる影みたいな人だなと。
そしてその魅力で出来ている映画でした。人生がこじれてこじれて、負けて負けて、最後はすっきりしたように見えるんだけど、たぶん、またこじれる。それなのにあんなに元気をくれるのです。それは観客が負けなかったからなのかもしれません。が、どちらかというと、あんなタニシ君にも彼なりの幸せをつかんでほしくて、できることならば自分自身もそうありたいという、同じ歩幅を彼に求めたから、というほうがいいような気がします。
ふと思ったのです。峯田和伸なら、プログラム・ピクチャーをやれるんじゃないかと。松竹がプログラム・ピクチャーをつくれなくなったのは、時代の影響だと言われますが、僕は、ブサイクな男が減ったからだと思うのです。みんな同じぐらいの身長で、顔が小さくて、育ちのいい均整の取れた顔をしている。すごくいいブサイクが、毎年同じ失敗を繰り返して、それでも愛されて生きているというのがいい。彼なら、それが出来る気がします。
ところでタニシ君が劇中、岡村孝子の「夢をあきらめないで」を絶唱するシーンがありますが、あれはじーんときます。あんなガーリッシュな歌を、タニシ君のものとして受け止められました。すごく格好よかった。朴訥とした小林薫もよかった。
今年はこれが7本目の映画になるのですが、これまでの年に比べて、この時期に投入される作品のレベルが高いと思います。決して僕の採点が甘くなったわけではないと思うのですが。上記の作品に思いを引きずったまま観た『ゴールデンスランバー』が、見事な出来映えで、「やられた」の一語に尽きます。
中村義洋監督の映画を観るのも、これが6作目となりましたが、新しい作品を観るたびに面白さが増幅しています。昨年のキネ旬西川美和が取りました。映画ファンがすきそうな映画を取るという意味ではそちらに軍配が上がるのでしょうが、大衆の娯楽を観たいときは中村義洋がいい。あの作風は、西川美和には撮れまい。
思うに、中村監督はものすごい編集魔ではないかと。もともと脚本の素晴らしい方なので、かなりガチガチの構成で臨んでいるのかもしれませんが、それでもかなり撮りためて、いじっている気がします。そのぐらい、作品に窮屈さを感じない。撮りたいものを撮って、見せたいものを見せて、観客は観たいものを観ている。そんな気がするのです。それはそんなに簡単なことではないはずです。
チーム・バチスタの栄光』までは、いまからトリックを暴きますからねという、律儀さのような窮屈さがあったと思います。それが『ジェネラル・ルージュの凱旋』あたりから、作品の組み立てを観客は気にしなくてよくなった。それはまさに「黄金のまどろみ」を観客に示しているのであって、堺雅人はじめとする過去作品の出演陣を動員した、オールスターゲームこそ、今作だったのです。
絆の話、と言われる原作ですが、キャストが絶妙にそれを表現しています。監督の演出、お見事です。前半の吉岡秀隆の脂汗(メイクでしょうが)を見たとき、ただならぬものを感じましたが、それは最後まで続きました。助演でひとりだけ選ぶなら、濱田岳でしょうか。しかしすべてのキャストがよかった。相武紗季を映画では『茶の味』以来に観ました。デビュー前から観ていて、観るたびにきれいになっていって、困ります。