韓国の女学生に振り回される

東洋人の朝は早い。ということを、隣の部屋の韓国人たちが証明してくれた。
実のところ昨晩、ウォッカですっかりつぶれてしまい、全財産を撒き散らして寝てしまっていた。被害はなかった。同部屋のダムは本当に裏のない男だと分かった。もっとも、初めから疑ってはいなかったのだが。
話を東洋人に戻そう。韓国人の彼女たちもまたドミトリーの住人である。どうやら女性専用の部屋のようで、ほかに白人がひとりいるらしかった。しかし起きているのは韓国人と、そして日本人の僕だけだ。
彼女たちは一日の計画を練っていた。僕が洗面所で用を済ませてふらふらして、挨拶をしてもやや警戒をしている様子である。韓国人だと分かったのはそのときであった。いくらか話をしていて、今日の予定を聞かれた。オペラは見たことがあるのかと。
ジャストな質問である。今日はオペラを見る日である。ロシアといえばバレエと言われるだろうが、どちらも伝統がある。有名なマリインスキー劇場で観劇したくて、事前に周到に調べ、オンラインでチケットを購入していた。ちなみに、英語で購入するしかなく、唯一読み取れたタイトルが、今日の『フィガロの結婚』だった。もちろん、ロシアの作品ではない。
彼女たちは食いついてきた。といっても、ふたり組の片方はしても積極的だが、もうひとりは引っ込んでいる。映画『子猫をお願い』の世界を見ているようだ。
積極的なほうが、チケットをどうしたのかと聞いていたので、オンラインで購入したが、ボックスオフィスもあると告げると、自信がなかったのだろう、オンラインで購入したいと言い出した。宿には何台か古いPCがある。しかし、購入にはIDが必要だ。彼女たちにはそれがない。すると、僕のIDを使いたいと言い出した。まあ、支払いさえしてくれればそれもいいだろうと思い、ID登録したフリーメールを探そうとしたら、PCが日本語を読み取らなかったうえに、SSL認証のある日本のサイトを開けなかった。これが国際事情というものなのか。
連れて行ってほしい。次の要求はそれだった。一人旅を満喫している身としては面倒くさいこと極まりなかったが、ここであったもなにかの縁。10時に出発という約束をして、とりあえずそれぞれの部屋に戻った。

(僕を振り回す容疑者2名。右がダラ。右写真のように、だいたいいつもダラが飛び出し、もうひとりが躊躇している。ちなみに見えているのは市役所だったはず。)
午前10時、出発。ちなみにもう分かっているかもしれないが、この時点でも、起きているのはわれら4人と、宿の人だけである。外はようやく明るんだ。韓国人のお嬢さんふたりは学生で、積極的なほうをダラといった。ニックネームだそうだ。いきなりニックネームか。韓国はそういうところなのだろうか。まるで西洋人のような自己紹介である。もうひとりの名前は忘れた。
朝食はどうするのかと聞くので、僕はそこら辺のカフェで済ませるというと、それはどこなのかと。そんなの知らん。とぼとぼ歩けばカフェにぶつかる街なのだから、べつに決めなくてもいい。しかし彼女たちは保守的というか、慎重で、では知っている店があるのでそこに行こうと。宿の近くの、よく見かけるチェーン店っぽい雰囲気のところだったが、朝が早くて(!)閉まっていた。まあカフェぐらいいくらでもあるじゃないかと思ったが、意見は棄却されて、マクドナルドに連れて行かれた。
貴重な一食をマクドナルドに制圧されるとは。仕方あるまい、日本、中国に次ぐ3カ国目のマクドナルドに突入である。いわゆる朝マックのようなものがあり、日本では見かけないパンケーキとハムと卵のプレートを注文。あとはコーヒー。相変わらずコーヒー以外の注文の仕方を知らない。

(これがロシアの朝マック。スチロールの皿に貧相な料理。トレイに紙2枚は店員の仕業。コーヒーカップの五輪マークはソチ五輪のことと思われる。今日も運河は凍てついてる。)
コーヒーの味はまあまあであったが、食事はひどい。日ごろ、あまりまずいという感覚に出会わない僕でも、この料理のまずさは分かった。この国史上最大のまずさ。味も風味もない、食感も楽しめない。この国のマックは信用ならないのか。KFCはおいしかったのに。「あ、それ昨日頼んだんだけど、まずいよね」とは同行者の弁。そういう大事なことは早く言え。