しらけどり映画大賞2009
今年が最後ですと言い続けて何年経ったか知れませんが、もうどこかの紳士服店の悪口を言えない立場でしょうか。いや、年に50本観られなかったらやめようと、本当に思っていたのですよ。しかし観てしまったのです。洋邦合わせて58本。邦画だけなら55本。うちキネマ旬報ベストテンの対象作品が54本。せっかく読者投票も済ませたことだし、じゃやりましょうかと。どうもすみません。
20089年にわたくしが観た映画のうち、日本映画のみを対象にして、作品のベストテンと演者選をいたしました。対象はこちらをご参照ください。ほんとうは製作者選もしたいのですが、まだそこまで言いたい放題は出来ません。
2009年作品十選(数字は順位)
こうやって好き勝手に順位をつけて7回目になりますが、アニメ映画がランクに入ったのは2回目です。そこに、しかもマッドハウスだけで1位と2位です。この2作品は、文句なしに面白かった。日本映画は、伝統をアニメーションに託していくのだろうか。2は松竹配給なので、とくにそんなことを強く感じる。作品がもつ空気は、ほかのどの実写映画より日本的な感じがした。
個人的なことだが、ここのところ、テレビドラマも少し見るようになった。面白いと思うものがあったからにほかならない。この10年ほどの日本映画の隆盛をつくってきた名優たちが、テレビのなかでひとつの時代をつくろうとしている。日本映画の発展がテレビを刺激し、映画の新たな潮流は、アニメーションの手に渡ったのではないか。
そうだとしても、映画にしか出来ないことはきっとある。それがなにか話すことは難しくても、感覚的に理解できそうな気はする。その点で3は突出している。どうしても『紀子の食卓』と比較してしまうのでベストテンが落ちそうになっていたのだが、1と2に対抗できる実写はこれしかない。これぞ園監督だ。
4はまじめで重厚、5はすばらしいコメディ。6は女の子になりたい子役があまりに素晴らしく、彼を包む優しい作風をベストテンに入れたかった。7の映像はやっぱり今年ナンバーワン。8にあんなに感動されられるとは。選手たちの走る姿がいい。やはりこれは映画だ。
ここまではだいたい順当に決められた。問題はここからで、作品のいろいろな技術的側面で見ていけば、『ディア・ドクター』と『空気人形』が上位確実なのだが、この2作品については、どうしても好きになれなかった。そこまで観る者の心をえぐったうえでなにがしたかったのか、いたずらでないなにかを受け止めることが出来なかった。
そこで、逆に、動いた心に優しさと強さを誘ってくれた2作品を選んだ。9は、また監督はとんでもないものをつくってしまったなあという印象。主役の少年の野性味は『スノープリンス』と真逆の位相にある。10もまた体当たりだが、ほぼ同年代の姿に身につまされるとともに、監督の喝に愛情があった。
なお次点は、『旭山動物園物語』『女の子ものがたり』『パンドラの匣』『14才のハラワタ』といったところでしょうか。
2009年主演十選(五十音順)
- 北乃きい(ハルフウェイ)
- 小西真奈美(のんちゃんのり弁)
- 堺雅人(南極料理人、クヒオ大佐)
- 笑福亭鶴瓶(ディア・ドクター)
- 染谷将太(パンドラの匣)
- 寺尾聰(さまよう刃)
- 西田敏行(旭山動物園物語 ペンギンが空をとぶ、釣りバカ日誌20 ファイナル)
- 福田麻由子(マイマイ新子と千年の魔法)
- ペ・ドゥナ(空気人形)
- 宮崎あおい(少年メリケンサック)
太字は男女それぞれ今年いちばんと思った方です。作品ベストテンで紹介できなかった作品を出来るだけ選んだつもりです。その結果、やはり"落とした"2作品が入ってきました。このなかでは北乃きいと宮崎あおいが2回目の主演での選出。堺雅人と笑福亭鶴瓶は過去に助演がありました。見事な技あり、新しい発見ありで素晴らしい。しかしベスト・オブ・ベストはペ・ドゥナでしょう。『ほえる犬は噛まない』から何本も観ていますが、いつ観てもいいのに、今回は格別にいい。
せっかくなので脱線してしまいますが、外国映画を含めてベスト作品は『母なる証明』なのですね。監督は『ほえる―』のポン・ジュノ。あんなのつくられたら、ほかの監督は勝てっこないよなという出来映えでした。いまこれを書いてしまうと、これまで書いてきたものがなんだったのかとやるせなくなりますが、とにかく刺激を受けて、発展してほしいのですよね。
あと、あの『14歳』の染谷将太がすごくいい役者になっていてたまらん。それから、正月に福田麻由子に言及できるときが訪れるとは。いやお若いので、今後たいへんなことになっていくのかもしれません。素直に楽しみにしています。
2009年助演十五選(五十音順)
- 柄本明(余命1ヶ月の花嫁、旭山動物園物語 ペンギンが空をとぶ)
- 大後寿々花(女の子ものがたり)
- 香川照之(劔岳 点の記、沈まぬ太陽)
- 高良健吾(南極料理人)
- 佐藤浩市(少年メリケンサック)
- 中谷美紀(ゼロの焦点)
- 仲里依紗(ハルフウェイ、サマーウォーズ、パンドラの匣)
- 原田夏希(僕の初恋をキミに捧ぐ)
- 富司純子(サマーウォーズ、空気人形)
- 前田亜季(銀色の雨)
- 満島ひかり(愛のむきだし、クヒオ大佐)
- 峯田和伸(色即ぜねれいしょん)
- 村上淳(のんちゃんのり弁)
- 八千草薫(ディア・ドクター、引き出しの中のラブレター)
- 山田辰夫(ゼロの焦点、代行のススメ)
太字は男女それぞれ今年いちばんと思った方です。出来るだけ新たな発見を重視したつもりが、いぶし銀が散見されます。満島ひかりがすごくよかったんですけどね。『ディア・ドクター』の八千草薫はずるい。
あとは、趣味です。作品選から漏れましたが、『余命1ヶ月の花嫁』『僕の初恋をキミに捧ぐ』は、お好みでない方もいらっしゃるでしょうが、いい作品だと思います。いい作品には、いい役者が付いてます。
2009年新人十選(五十音順)
- 大島優子(銀色の雨)
- 大塚智哉(大阪ハムレット)
- 岸田繁(色即ぜねれいしょん)
- 熊田聖亜(僕の初恋をキミに捧ぐ)
- 小林優斗(ワカラナイ)
- 佐藤初(女の子ものがたり)
- 長野レイナ(14才のハラワタ)
- 西島隆弘(愛のむきだし)
- 水沢奈子(引き出しの中のラブレター、マイマイ新子と千年の魔法)
- 渡辺大知(色即ぜねれいしょん)
太字は男女それぞれ今年いちばんと思った方です。ここで取り上げねばならないのは『14才のハラワタ』『色即ぜねれいしょん』である。前者は作品そのものの質以上に、長野レイナ(=ハラワタ)というとんでもないキャラクターの出現を喜びたい。役者としてどうというより、彼女でなければハラワタはありえなかった。これもまた映画を観る喜びというものだ。
後者は作品として面白かった。が、これにしても渡辺大知が恥じらいなく堂々と演じてこその作品だ。そこに新人とは意外な岸田繁が絡む。たまらない配役だと思う。
さて、ここまで。結局は今年も映画を観てしまうのでしょう。悲しむことではありませんが。