ダム、ふたたび

今回で2日目も終わるのでご安心を。
前回、同居人ダム君について書いたとき、彼は1月2日、つまりこの日にモスクワに旅立つことを説明した。元日に初めてあった彼は僕に、「トゥデイはラスト・ナイトなんだ」と告げた。はずだった。
しかし英検2級は当てにならなかった。部屋に戻ると、汚かった。きれいになっていなかった、というほうが正しかろう。そう、ダムはいたのだ。昨日の僕は完全に聞き違いをしていたようだ。聞き直すと、彼は月曜までここにいるらしい。やれやれ、どっぷり付き合う覚悟が必要なようである。
彼は部屋にある共同の冷蔵庫に、パンやら卵やらハムやら、いろいろ入れている。共有なのに、彼のものしか入っていない。今日はビールをくれた。ロシアのビールは安いていいと、ダムはご機嫌だ。なんだかもらってばかりで申し訳ない。

(今回は日記に沿った写真がほとんどないので未公開ものを。左はクリスマスツリーのある宮殿広場、右はそこに現れた仕事中でない軍人)
部屋への帰り際、ダムが言っていたスーパーマーケットを探したら、すぐに見つかった。あれはスーパーというより、田舎の個人商店だ。山間地でコンビニに転換する前から存在している食料品店のイメージ。それでも僕が最低限ほしいものは揃いそうである。ついに、ウォッカなるものを買った。
この商店では大半のものがカウンターの向こうに陳列されているか、ショーケースに納められているので、ほしいものを店員に言って出してもらわないといけない。なんだか透明な瓶がたくさんあって、たぶんすべてがウォッカなのだが、これがほしい、などと言える感じでない。しかしなんとか小ぶりのものを指差して、味がどうなんてことは分からないまま、それを買った。72P(ルーブル)。
それから水も買った。水は昨日より安かった。ウォッカと一緒の会計で100P札でお釣りがきた。たぶん、水は27P。とすると、昨日よりも8P安い計算だ。同じものにしか見えないペプシ社製のミネラルウォーターなのに。

(駄目押しのエルミタージュ天井コレクション)
ダムは英語もロシア語も出来ない僕をあきらめた、というわけではないだろうが、夜食を摂りながら、ひょっこり捕まえたドイツ人と話している。ティムというそうだ。でも彼もシャイで口数が少ないので、誰かほかの女性と話しているようである。ダムの積極性にたじろぐのは僕だけではないらしい。
あとでダムが明かしたところによると、あのふたりは兄妹(逆かもしれない)なのだそうだ。スウェーデンとスイスに住んでいて、母親はたいへん優秀な医者なのだという。たぶん聞き違えている。
そして僕はこうして黙々と日記を書いている。こういうところが海外旅行に向いていないのだろうか。去年、うちの会社に入った新人は海外渡航歴が実に豊富で、20カ国は行ったようだが、海外に限らず、いろいろと話を聞いてみると、こうして黙々と日記を書く僕とは明らかに違うところがある。黙々とするか、ドイツ人と談笑するか、その辺で人生を豊かに出来るかどうか、とても見えてくる気がするのだ。
その新人がメールで、早速話し相手が出来たのはよかった、と言った。はじめは適当なことを言っていると思ったが、それはそれで経験を踏まえた言葉だったのかもしれない。

(左が初購入のウォッカ。中央と右はホステル前に毎朝散歩してくる犬を撮影しようと格闘。シャッタースピードが長いのでほとんど姿が現れない。)
さて、今夜からは宿の番が男性に代わった。老人である。彼が、メールを交わしたイゴールなのだろうか。そういうことにしよう。
先ほどから部屋の外が騒がしい。イゴールも忙しそうだ。ダムがなにか話をつけたみたいである。聞き違いでなければ、であるが、新しい住人がやってくるらしい。どうもいま、ダムが話している兄妹のどちらからしい。あの話し振りだと、なんと女性のほうだ。ダムはとても社交的で親切な隣人であるが。日本で会ったら友人にはならなかっただろう。こういうのも貴重な経験と呼ぶのだろうか。